SaaSの最重要KPI「MRR」とは?正しい計算方法と収益を最大化する7つの改善策
SaaSビジネスの成長において最も重要な指標の一つ「MRR(月次経常収益)」の意味と正しい計算方法を分かりやすく解説します。新規獲得やアップセルなどMRRを構成する4つの要素と、収益を最大化するための7つの具体的な改善策を紹介します。

「SaaS事業の成長が頭打ちになり、新規獲得コストが高騰している」とお悩みの事業責任者は多いのではないでしょうか。SaaSのビジネスモデルで収益を安定して伸ばす最大のポイントは、新規獲得偏重から既存顧客の収益最大化へ戦略をシフトすることです。本記事では、SaaSビジネスの最重要KPIである「MRR(月次経常収益)」の正しい計算方法から、成長鈍化を乗り越えるための7つの具体的な改善策を解説します。
SaaS市場の成熟と戦略のシフト

SaaS市場は急成長期を終え、成熟期に入りつつあります。企業はこれまでの「とにかく新規顧客を増やす」という戦略を見直す時期に来ています。
市場の成長鈍化と生き残り戦略
近年のSaaSビジネスは、全体として成長の鈍化傾向が見られます。SaaS Capitalの調査レポートによると、1,000社以上の非公開B2B SaaS企業を対象としたデータにおいて、2025年の全企業の中央値成長率は25%でした。これは2023年の30%から減少しており、パンデミック以前の水準に落ち着きつつあることを示しています。
このような環境下では、競争の激化により顧客獲得コストが高騰します。そのため、新規顧客の獲得だけに依存するのではなく、既存顧客からの継続的な収益基盤を固めることが求められます。市場の飽和を突破するための最新動向については、「SaaS is dead」は本当か?SaaS業界が生き残るための3つの次世代トレンド で詳しく解説しています。また、国内SaaS企業の動向は【2026年版】SaaS企業ランキング5選!一覧でわかる市場動向と選び方 も参考にしてください。
まずは自社のマーケティング予算の配分を見直し、既存顧客向けのカスタマーサクセス活動にリソースを振り向ける計画を立てることが、最初の改善策となります。
MRRとは?4つの構成要素と正しい計算方法

SaaSビジネスを安定して成長させるためには、MRR(月次経常収益)の正確な把握が欠かせません。MRRを構成する要素を細分化し、それぞれの数値を現場の運用に落とし込むことが重要です。
MRRを構成する4つの要素
MRRの増減を正しく評価するためには、収益を以下の4つの要素に分解して追跡します。
- New MRR(新規MRR): その月に新しく獲得した顧客から得られた収益
- Expansion MRR(アップセルMRR): 既存顧客のプラン変更(上位プランへの移行)や追加IDの購入による収益の増加分
- Downgrade MRR(ダウングレードMRR): 既存顧客のプラン降格やID数削減による収益の減少分
- Churn MRR(解約MRR): 顧客の解約によって完全に失われた収益
実践的なMRRの計算式とシミュレーション
これら4つの要素を組み合わせた当月のMRRの計算式は以下の通りです。
当月MRR = 前月MRR + (New MRR + Expansion MRR) - (Downgrade MRR + Churn MRR)
たとえば、前月末時点でのMRRが1,000万円のSaaS企業があるとします。当月の実績が以下の通りだった場合の計算例を見てみましょう。
- 新規顧客の獲得(New MRR):+100万円
- 既存顧客のアップセル(Expansion MRR):+50万円
- 既存顧客のダウングレード(Downgrade MRR):-20万円
- 既存顧客の解約(Churn MRR):-30万円
当月MRR = 1,000万円 + (100万円 + 50万円) - (20万円 + 30万円) = 1,100万円
このように、各要素の動きを毎月可視化することで、「新規は獲れているが解約が多すぎる(穴の空いたバケツ状態)」といった課題を早期に発見できます。プロダクトが本当に市場にフィットしているか見直す方法は、PMFとは?ビジネスでの意味とSaaS事業を成功に導く3ステップ を参考にしてください。
カスタマーサクセス強化による解約率の改善
MRRを持続的に成長させるためには、Churn MRR(解約MRR)を最小限に抑えることが不可欠です。
オンボーディングのプロセス改善
SaaSの解約の大部分は、導入直後の「オンボーディング期」に集中します。システムの操作方法が分からず、業務に定着しないまま放置されるケースです。これを防ぐためには、単にマニュアルを渡すだけでなく、顧客の業務課題を解決するための能動的なカスタマーサクセス活動が求められます。
具体的なアクションとして、導入後1ヶ月以内の「初期設定完了率」や「コア機能の利用率」を計測し、基準を満たしていない顧客に対して自動でフォローメールを送信する、あるいは直接電話をかけるシナリオを実装しましょう。システムの定着を促し、初期離脱を防ぐ具体的な手法については、SaaS オンボーディングで定着率を劇的に上げる7ステップ|カスタマーサクセス成功例とロードマップ で解説しています。
成長率ベンチマークに基づく投資判断

自社のサービスが市場全体の中でどのような立ち位置にあるのかを、客観的なデータに基づいて整理することも重要です。
LTVとCACのバランス(ユニットエコノミクス)
SaaS事業の健全性を評価する際、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得単価)のバランスが判断基準となります。一般的に、SaaSビジネスでは「LTV / CAC > 3(LTVがCACの3倍以上)」が健全な水準とされています。
市場全体の成長率が落ち着いている環境下では、広告費の高騰によりCACが悪化しやすくなります。四半期ごとにこの比率を算出し、3倍を下回るようであれば、新規獲得向けの広告費を一旦削減し、既存顧客のサポート人員増やプロダクト改善に予算をシフトする柔軟な判断が必要です。LTVと解約率の関係については、SaaSのLTV計算方法とは?チャーンレート改善で利益を最大化する3ステップ も併せて確認してください。
ヘルススコアを活用したExpansion MRRの向上

既存顧客の解約を防ぎつつ、1社あたりのMRRを伸ばす(Expansion MRRの向上)ことが利益率の改善に直結します。
具体的な指標とツール活用例
顧客に対して追加提案(アップセル・クロスセル)を行う適切なタイミングを見極めるには、顧客の利用状況を数値化した「ヘルススコア」の導入が効果的です。HubSpotやGainsightなどの専用ツール、あるいは自社のデータベースを活用して、以下のような指標を定量的に評価します。
- ログイン頻度の推移: 週に3回以上ログインしているアクティブな状態か
- ライセンスの消化率: 契約しているアカウント数の上限(例:80%以上)に近づいているか
- 高度な機能の利用: 基本機能だけでなく、上位プランに含まれるような機能へのアクセス履歴があるか
これらのデータに基づき、スコアが高い(=サービスから十分に価値を引き出している)顧客を抽出し、営業担当者がピンポイントで上位プランを提案する仕組みを構築します。
解約兆候の早期検知と対応フローの構築
解約の兆候を見逃さず、迅速に対応するフローを整えることも欠かせません。
AIを活用した自動アラートと属人化の解消
ヘルススコアが急激に低下した顧客や、最終ログインから14日間経過したユーザーをシステムで自動抽出し、担当者にアラートを送る仕組みが必要です。しかし、アラートが鳴った後の対応フローが定まっていなければ意味がありません。
「アラート検知から24時間以内に状況ヒアリングのメールを送信する」「48時間以内に電話でコンタクトを取る」といった具体的な対応マニュアルを作成し、属人化を防ぎます。最近では、解約の予兆を精度高く捉えるためにAIを活用するアプローチも増えています。詳細は【SaaS向け】カスタマーサクセスのAI活用手順|LTVを予測して最大化する実践アプローチ を参考にしてください。
現実的なMRR目標の再設定とLTV最大化
最後に、市場環境の変化に応じた成長目標の再設定が必要です。
保守的な新規目標とアップセル比率の引き上げ
過去の高い成長率を前提とした無理な目標設定は、現場への過度なプレッシャーとなり、結果として質の低い顧客の無理な獲得(=早期解約の原因)につながります。
次年度の事業計画においては、新規獲得によるNew MRRの目標値を保守的に見積もる一方で、Expansion MRRの目標比率を前年比で10%引き上げるなど、既存顧客のLTVを最大化する計画を策定してください。
まとめ
SaaSビジネスにおいて、MRRは事業の持続的な成長を測る上で最も重要なKPIです。市場の成長が鈍化傾向にある現在、新規顧客獲得に加えて、既存顧客からの収益拡大と解約率の抑制が成功の鍵を握ります。
本記事では、MRRの計算式や構成要素の理解から、ヘルススコアを活用したアップセル提案、解約兆候の早期検知といった具体的な改善策を解説しました。
これらのポイントをSaaS事業の戦略に組み込み、データに基づいた判断を継続することで、強固な収益基盤を築くことができるでしょう。SaaSビジネスの各部門が連携して収益を最大化する組織体制の作り方については、【SaaS企業向け】売上を最大化する「The Model(ザ・モデル)」とは?分業体制の作り方と成功の秘訣 も併せてお読みください。

業務を変えるSaaSと、社内AIシステムを。
B2B 向けの SaaS プロダクトや、企業の業務課題を解決する社内向け AI システムを、企画・設計・開発・運用まで一貫対応。マルチテナント・課金・権限管理といった SaaS 基盤から、LLM を活用した社内ナレッジ検索・ドキュメント生成・業務自動化まで、事業と組織の成長に直結するシステムを構築します。

伊藤翔太
大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。
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