SaaS経理・財務
伊藤翔太伊藤翔太

NRRとは?計算式・GRRとの違い・2026年ベンチマーク103%を一次ソースで解説

NRR(Net Revenue Retention/売上維持率)は、既存顧客からの純収益維持率を示すSaaSの最重要KPIです。計算式の構成要素、アップセルを含まないGRRとの違い、2026年のSaaS Capital median 103%・Enterprise 118%などの最新ベンチマーク、成長フェーズ別の使い分けまで体系的に解説します。

NRRとは?計算式・GRRとの違い・2026年ベンチマーク103%を一次ソースで解説
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NRR(Net Revenue Retention)とは、既存顧客からの収益が一定期間でどれだけ維持・拡大されたかを示す指標です。日本語では「売上維持率」または「売上継続率」と呼ばれ、SaaSビジネスの健全性を測る最重要KPIのひとつです。

計算式は「 NRR(%) = (期初MRR + アップセルMRR − ダウングレードMRR − チャーンMRR) ÷ 期初MRR × 100 」で表されます。NRRが100%を超えると、既存顧客の収益拡大が解約損失を上回る「ネガティブチャーン」状態となり、新規顧客がゼロでも事業が成長します。

NRRと混同されやすい指標に GRR(Gross Revenue Retention/総収益維持率) があります。GRRはアップセルによる増収分を含まず、解約・ダウングレードによる収益減少のみを反映するため、最大値は100%です。NRRは100%超えを目指す指標であり、両者はSaaSの健全性を別々の角度から評価します。

本記事を読むと、次の3点がわかります。

  • NRRの計算式と4つの構成要素(期初MRR/アップセル/ダウングレード/チャーン)の運用基準
  • GRRとの定義上の違いと、成長フェーズに応じた使い分けの判断軸
  • 2026年の最新ベンチマーク(SaaS Capital median 103%/Enterprise 118% ほか)と自社水準の照合方法

1. NRRの計算式と4つの構成要素

NRR(Net Revenue Retention:売上維持率)を正確に算出する第一歩は、構成要素の正しい把握です。一般的な計算式は次の通りです。

NRR(%) = (期初MRR + アップセルMRR − ダウングレードMRR − チャーンMRR) ÷ 期初MRR × 100

既存顧客から得られる収益の増減を漏れなく可視化できるかが運用の鍵になります。計算式に用いる4つの基本要素は以下の通りです。

  • 期初MRR: 計測開始時点(月初や期首)で確約されている既存顧客からの定期収益
  • アップセルMRR: 上位プランへの移行や、利用アカウント数の追加による増収分(クロスセル含む)
  • ダウングレードMRR: 下位プランへの変更や、オプション機能の解除による減収分
  • チャーンMRR: 顧客のサービス完全解約による減収分

なお新規顧客の獲得分(New MRR)は計算式に含めません。NRRは「既存顧客の収益がどれだけ残ったか」を測る指標のため、新規獲得分を分離するのがルールです。

現場で数値を運用する際は、部門間でMRRの計上基準を統一することが前提となります。営業部門とカスタマーサクセス部門で「どのタイミングの契約変更を当月の増減として扱うか」の認識がずれていると、算出される数値に誤差が生じます。

最初の要点は、計算に必要な4つの収益指標の基準を社内で厳密にすり合わせることです。正確なデータを収集する体制を構築することで、SaaSビジネスの健全性を客観的に評価する土台が整います。

2. 収益増減の要因分解と現場での分析

SaaS事業におけるNRRを正確に把握するためには、収益の増減要因を細かく分解して計算します。計算を構成する4つの基本要素を整理し、現場での運用方法を具体化します。

NRRを構成する要素の図解

ここで鍵になるのは、既存顧客からの収益増加(アップセルやクロスセルによるExpansion)と、収益減少(プラン降格によるDowngradeや解約によるChurn)のバランスです。

収益変動を分解する判断軸

NRRが100%を超えている場合、既存顧客からの収益増加が解約による損失を上回っていることを意味します。ただし、単に最終的な数値を見るだけでなく、どの要素がNRRを押し上げ、あるいは押し下げているかを分析する必要があります。

たとえば、アップセルが好調でも解約率(Churn)が異常に高い場合、プロダクトの価値が一部の顧客にしか届いていない可能性があります。PMF(プロダクト・マーケット・フィット)達成後の成長戦略においては、ExpansionとChurnの要因を特定することが求められます。

現場で運用する際の注意点

数値を運用する際の最大の注意点は、データの集計基準を全社で統一することです。営業部門とカスタマーサクセス部門で「解約」や「ダウングレード」の定義や計上タイミングが異なると、正確な数値を算出できません。また、年払い契約と月払い契約が混在している場合は、月次収益(MRR)に正しく換算して計算式に当てはめる必要があります。

事業の立ち上げ初期段階から収益継続の概念を持っておくことも有効です。MVPとはなんの略?ビジネスでの意味と最小限(minimum)の開発で成功する3ステップの段階であっても、顧客が継続して対価を支払う価値があるかを検証しましょう。これにより、将来的なNRR向上の土台を作ることができます。

KPI設計の全体像を整理する場合は、SaaS事業計画書テンプレートのKPI分解も併せて確認してください。NRR・MRR・チャーン率を時系列で予測するシミュレーション例を掲載しています。

3. NRRとGRRの違いと使い分け

SaaSビジネスにおいて収益性を正確に把握するためには、各指標の特性を正しく理解する必要があります。ここでは、NRRと GRR(Gross Retention Rate:総収益維持率) との違いと使い分けについて解説します。

指標の違い

NRRがアップセルやクロスセルによる収益増加を含めた「純収益維持率」であるのに対し、GRRはアップセルを含めず、解約やダウングレードによる減収のみを反映する「総収益維持率」です。

両者の違いを以下の表に整理します。

比較項目NRR(純収益維持率)GRR(総収益維持率)
定義既存顧客からの純粋な収益維持・拡大の割合既存顧客からの基本収益の維持割合
計算式(期初MRR + アップセル/クロスセル − ダウングレード − 解約) ÷ 期初MRR × 100(期初MRR − ダウングレード − 解約) ÷ 期初MRR × 100
最大値上限なし(100%超えを目指す)100%(アップセルを含まないため)
重視するポイント顧客単価の向上と事業全体の成長性既存顧客の定着率とプロダクトの根本的な価値

具体例で見るNRRとGRRの算出結果の違い

両指標を並行して確認すべき理由を、具体的な金額ベースの例で見てみましょう。 期初MRRが100万円のSaaS企業で、当月に以下の変動があったと仮定します。

  • アップセル(既存顧客のプラン上位移行): +30万円
  • チャーン(既存顧客の解約): −20万円
  • ダウングレード: 0円

この場合、それぞれの計算式に当てはめると以下のようになります。

  • NRR: (100万円 + 30万円 − 20万円) ÷ 100万円 × 100 = 110%
  • GRR: (100万円 − 20万円) ÷ 100万円 × 100 = 80%

NRRだけを見ると「100%を超えており事業は好調」と判断してしまいがちです。しかしGRRを確認すると「既存顧客ベースの収益が20%も失われている」ことが可視化されます。 つまり、「一部の大手顧客へのアップセルで全体の売上は伸びているが、実は多くの顧客がプロダクトから離脱している」という実態が浮かび上がります。

事業の健全性を評価する際は、両方の指標を定点観測することが前提となります。2つの指標の乖離が大きい場合は、カスタマーサクセスのリソース配分を見直し、解約防止策を優先するなどの具体的なアクションに落とし込みます。

4. NRRの2026年ベンチマーク|SaaS Capital median 103%とセグメント別水準

NRRを算出したら、自社水準が業界比でどの位置にあるかを照合します。ここでは2026年に公表された一次ソースの数値を整理します。

主要ベンチマークの比較

出典対象セグメント中央値(median)トップ層
SaaS Capital 2026(1,000社以上のB2B SaaS調査)ブートストラップ・ARR $3M〜$20M103%90パーセンタイル:117.9%
Optifai 2026(939社)Enterprise(ACV $100K超)118%トップ四分位:130%超
Optifai 2026Mid-Market(ACV $25K〜$100K)108%トップ四分位:130%超
Optifai 2026SMB(ACV $25K未満)97%トップ四分位:130%超
ChartMogul Insightsベストインクラス全体110〜120%NRR 100%超企業は同業比1.5〜3倍の成長率

ここから読み取れる判断軸は次の通りです。

  • NRR 100%超え は健全性の最低ライン。100%を割っている場合、新規顧客獲得でしか成長できない状態
  • 顧客セグメントごとに目標を変える: Enterprise中心なら110%台後半、SMB中心なら100%前後が現実的な目線
  • ARR規模が小さいほどNRRは低くなる傾向: 顧客基盤が薄いとアップセルの絶対額が小さくチャーンの影響を受けやすい

自社NRRをベンチマークと照合する手順

  1. 自社の主要顧客セグメント(Enterprise/Mid-Market/SMB)を確認する
  2. 同セグメントの中央値(97〜118%)と自社NRRを比較する
  3. 中央値を下回る場合は、NRRよりも先にGRR・チャーン率の改善を優先する

なおAIネイティブSaaSは中央値NRRが48%と公表されており、従来型SaaSのベンチマークがそのまま適用できないケースもあります(出典:SaaS Mag「Why Net Revenue Retention Is the Defining SaaS Metric of 2026」)。事業モデルの特性を踏まえて自社目標を設定しましょう。

5. 成長フェーズに応じた指標の使い分け

ここまでで定義と計算式、ベンチマークを押さえました。次は事業の成長フェーズに応じて、NRRとGRRをどちらの主軸KPIにすべきかを判断します。

成長フェーズに応じたNRRとGRRの使い分け

成長期と成熟期での違い

SaaSの立ち上げ初期は、顧客基盤が小さくアップセルやクロスセルが発生しにくい状態です。そのため、まずは解約を防ぐことが最優先課題となります。初期フェーズでは既存顧客からの収益維持率を示すGRRを重視し、プロダクトが市場に適合しているかを確認します。

一方、事業が成長期から成熟期に入ると、既存顧客からの収益拡大が事業成長の鍵を握ります。この段階では、アップセルやクロスセルによる増収分を加味したNRRを用います。そして、指標が100%を超える状態であるネガティブチャーンを目指します。フェーズに合わせてNRRとGRRの数値を比較し、どちらをKPIの主軸に置くかを明確にしましょう。これにより、経営層と現場の認識のズレを防ぐことができます。

現場で運用する際の注意点

現場で数値を運用する際は、単月の変動に一喜一憂せず、四半期や年間を通じたトレンドで評価することを推奨します。特定の月に大型のアップセルや解約が集中すると、数値が一時的に大きくブレるためです。

また、NRRが100%を超えて一見健全に見えても、一部の大型顧客のアップセルが多数の小規模顧客の解約を覆い隠しているケースがあります。このリスクを早期に察知するためには、一つの指標単体で判断してはいけません。複数の指標を組み合わせた定点観測が前提となります。

資金調達フェーズにある場合、投資家もNRRを重視します。法人SaaSの資金調達方法6選では、シリーズA以降で投資家が必ず確認する評価指標としてNRR・LTV・チャーン率の水準感を整理しています。

6. 解約とダウングレードの正確な切り分け

NRRの精度はデータ入力の質で決まります。ここでは現場運用における「解約(チャーン)」と「ダウングレード」の正確な切り分けについて整理します。

解約(チャーン)とダウングレードの違い

判断の起点は、顧客の契約変更がどの項目に該当するかの定義を明確にすることです。たとえば、利用ライセンス数の減少やオプション機能の解約は、サービス自体の完全な解約(チャーン)ではなく、ダウングレードとして処理する必要があります。この分類を誤ると、顧客維持率の正確な実態が掴めず、誤った経営判断を下すリスクが生じます。

現場で運用する際、営業部門やカスタマーサクセス部門の間でこれらの定義が曖昧になっているケースがよく見られます。各担当者が独自の基準で数値を入力してしまうと、データの信頼性が損なわれます。そのため、CRMや契約管理システムにデータを入力する段階で、明確なルールを敷くことが前提となります。

加えて、決済・課金の自動リトライ(Dunning)処理が機能していないと、本来は継続している顧客がチャーンに誤計上されることもあります。SaaS決済システムの比較ポイントでは、決済失敗時の自動再試行や請求書発行の継続性など、チャーン誤計上を防ぐ機能を整理しています。

正確な数値を算出するためには、社内で統一されたデータ入力基準を設けます。計算式自体はシンプルですが、その前提となるデータの質を担保することが、精度の高い収益分析を実現する鍵となります。

7. 定期的なモニタリングと改善アクションの連動

SaaS事業において現場で数値を運用する上で、最後に押さえておくべき要点は、指標の定期的なモニタリングと改善アクションの連動です。NRRは単発で算出して終わるものではなく、事業の成長性を測る羅針盤として継続的に活用します。

収益の健全性を評価する際は、NRRとGRRの数値をセットで確認します。たとえば、NRRが100%を超えていても、GRRが極端に低い場合は注意が必要です。これは、一部の既存顧客からのアップセルで収益の減少分を補っているものの、実際には多くの顧客が解約している状態を示しています。現場では、両者の指標を比較することで、解約防止に注力すべきか、アップセル提案を強化すべきかの判断軸を具体化できます。

現場で運用する際は、計算対象とする期間(月次や年次)を統一します。これにより、季節要因やキャンペーンによる一時的な影響を排除できます。また、定期的に算出した結果を、営業やカスタマーサクセス部門と共有します。その上で、具体的なアクションプランに落とし込む体制を構築しましょう。

指標の変化を早期に察知し、顧客の利用状況に合わせた適切なフォローを行うことが、持続的な収益基盤の構築につながります。

よくある質問

NRRとGRRはどちらを重視すべきですか?

初期フェーズのSaaSでは、まず解約を防ぐためにGRRを重視します。一方、プロダクトが市場に定着し成長期に入った段階では、アップセルを含めた既存顧客の拡大が事業の鍵となるため、NRRを主軸のKPIとして追跡するのが基本です。

NRRの目安(ベンチマーク)はどれくらいですか?

2026年のSaaS Capital調査では、ARR $3M〜$20Mのブートストラップ系B2B SaaSのNRR中央値は 103% 、90パーセンタイルは117.9%でした。Optifaiの939社調査では、Enterprise(ACV $100K超)の中央値が118%、Mid-Marketが108%、SMBが97%と、顧客セグメントによって水準が大きく異なります。自社のARR規模・顧客セグメントに近い数値と照合してください。

NRR 値とは何ですか?

「NRR値」は「NRRの数値」という意味で使われます。例えば「NRR値110%」は、計算式で算出したNRRが110%であることを示します。100%を超えていれば既存顧客から純粋に収益が拡大している状態、100%未満であれば既存顧客の収益が縮小している状態を意味します。

NRRが100%を超えるとどうなりますか?

NRRが100%を超える状態は「ネガティブチャーン」と呼ばれます。新規顧客の獲得がゼロでも、既存顧客のアップセル・クロスセルによる増収が解約による減収を上回り、事業が自然に成長します。ChartMogulの分析によれば、NRR 100%超の企業は同業他社の1.5〜3倍の成長率を示すとされ、SaaS投資家が重視する最重要KPIの一つです。

NRRとNDRは違う指標ですか?

NDR(Net Dollar Retention)とNRR(Net Revenue Retention)はほぼ同義で使われ、計算式も同じです。米国系企業ではNDR、日本やアジアではNRRと表記される傾向があります。投資家向け資料で並記されている場合は、特に区別する必要はありません。

まとめ

SaaSビジネスの持続的な成長には、NRR(Net Revenue Retention)の正確な理解と活用が前提となります。本記事の要点を整理します。

  • 計算式: NRR(%) = (期初MRR + アップセル − ダウングレード − チャーン) ÷ 期初MRR × 100。新規顧客は含めない
  • GRRとの違い: NRRはアップセルを含む純収益維持率(上限なし)、GRRはアップセルを除いた総収益維持率(最大100%)
  • 2026年ベンチマーク: SaaS Capital median 103%/Optifai Enterprise 118%・Mid-Market 108%・SMB 97%
  • フェーズ別の使い分け: 初期はGRR重視(解約防止)、成長期以降はNRR重視(アップセル拡大)
  • データ精度: 解約とダウングレードの定義統一・新規分の分離が前提

NRRを羅針盤として顧客価値の最大化と安定的な事業グロースを目指してください。収益指標を運用に落とし込むときは、本文で整理した判断基準を順に確認してください。

業務を変えるSaaSと、社内AIシステムを。

B2B 向けの SaaS プロダクトや、企業の業務課題を解決する社内向け AI システムを、企画・設計・開発・運用まで一貫対応。マルチテナント・課金・権限管理といった SaaS 基盤から、LLM を活用した社内ナレッジ検索・ドキュメント生成・業務自動化まで、事業と組織の成長に直結するシステムを構築します。

伊藤翔太

伊藤翔太

大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。

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