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伊藤翔太伊藤翔太

資金調達方法6選|法人SaaS企業のフェーズ別戦略と失敗しない選び方【2026年版】

SaaS法人が活用できる資金調達方法を6種類フェーズ別に解説。公的融資・VC・ベンチャーデット・RBFなど手法ごとの特徴と審査ポイントを比較し、自社の成長ステージに合った最適な調達戦略が立てられます。

資金調達方法6選|法人SaaS企業のフェーズ別戦略と失敗しない選び方【2026年版】
#資金調達#SaaS#スタートアップ#ベンチャーキャピタル#補助金#事業成長#財務戦略

法人SaaS企業が資金調達で失敗しない最大のポイントは、 自社の成長フェーズ投資家が評価するユニットエコノミクス の2軸で手法を選ぶことです。2026年現在、公的融資・VC・ベンチャーデット・RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)・補助金・ファクタリングの6手法が法人SaaS向けの主要選択肢として整備されており、フェーズに合わない手法を選ぶと「審査落ち」「株式の過剰希薄化」「キャッシュフロー悪化」の三大リスクにつながります。本記事では、各手法の特徴・審査基準・活用タイミングをフェーズ別に整理し、事業を次のステージへ進めるための判断軸を提供します。

SaaS事業における資金調達の全体像

SaaS事業における資金調達の全体像

SaaS事業を立ち上げ、スケールさせるためには、自社の事業フェーズに合った資金調達の方法を見極めることが不可欠です。SaaSは初期の開発投資やマーケティング費用が先行し、サブスクリプション型の収益によって時間をかけて投資を回収していくビジネスモデルです。

そのため、一時的なキャッシュフローの悪化を乗り越えるための緻密な財務戦略が求められます。現在のスタートアップ市場におけるSaaS領域への投資は非常に活発であり、経済産業省の発表によると、国内スタートアップへの投資額は増加傾向にあります。なかでもAIやSaaSといったテクノロジー分野での投資が活発化しており、市場の期待値は依然として高い状態です。

しかし、資金が潤沢な市場環境であっても、投資家は独自のシビアな基準で企業を評価します。企業の最適な資金調達の方法選びの第一歩は、自社が現在どのフェーズにあり、どのようなKPIを証明できているかを客観視することです。

投資家が重視するSaaS特有の評価基準

エクイティファイナンス(株式発行を伴う資金調達)を目指す場合、投資家はSaaSビジネス特有のKPI(重要業績評価指標)を厳しくチェックします。SaaSは単発の売り上げではなく、継続的な収益基盤が企業価値に直結するためです。

投資家が特に重視する指標は以下の3点です。

  • ARR(年間経常収益): 毎年継続して得られる収益の規模と成長率を示します。
  • チャーンレート(解約率): 獲得した顧客がどの程度サービスを継続しているかを示す定着度です。この数値が高いと、事業の持続性が疑われます。
  • LTV/CAC比率: 顧客から得られる生涯価値(LTV)が、1社あたりの獲得コスト(CAC)の何倍かを示す投資効率です。一般的に、LTVがCACの3倍以上であることが健全なSaaS事業の目安とされます。

これらの指標を継続的に計測・改善し、健全なユニットエコノミクス(顧客1あたりの採算性)を証明することが、高い企業評価を得るための最大のポイントです。SaaSの基本的なビジネスモデルや収益構造について改めて確認したい場合は、【完全図解】SaaSとは?正しい意味・読み方から導入メリットまで初心者向けに解説 も参考にしてください。

企業の成長フェーズ別・資金調達戦略

企業の成長フェーズ別・資金調達戦略

SaaS事業は、初期にシステム開発やマーケティングのコストが先行し、時間をかけてサブスクリプション収益を回収する「Jカーブ」を描く特性があります。そのため、自社が現在どのフェーズにいるのかを正確に把握し、法人の実態に合わせた適切な資金調達の戦略を立てることが重要です。

創業初期:公的融資制度を活用する

創業初期のSaaSスタートアップは、プロダクトのプロトタイプ(MVP)が未完成で、売上実績もないケースが大半です。この段階では、株式の希薄化を防ぐために公的機関の融資制度の活用が有力な選択肢となります。

代表的なものとして、日本政策金融公庫の「新規開業資金(旧・新創業融資制度など)」が挙げられます。経営者保証免除特例制度などを活用することで、無担保・無保証人で融資を受けられる可能性があります。MVPの開発費用や初期のテストマーケティング費用に充てる手段として非常に有効です。審査を通過するためにはSaaS特有のビジネスモデルを適切に説明する事業計画が不可欠なため、個人事業主の事業計画書の書き方|SaaS融資を通す無料テンプレート などのサンプルを活用して説得力のある資料を作成しましょう。

シード・アーリー期:SaaS特化型VCやRBFからの調達

MVPが完成し、初期顧客の獲得やPMF(Product Market Fit)の検証を進めるシード・アーリー期では、エンジェル投資家やシード〜アーリー特化型VC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達が一般的になります。

「ALL STAR SAAS FUND」や「DNX Ventures」「One Capital」など、SaaSビジネスに深い知見を持つ特化型VCを選ぶことで、資金だけでなく経営や採用のハンズオン支援も期待できます。また、直近の売上実績が出始めている場合は、将来のサブスクリプション売上を現金化する「Yoii Fuel」などのRBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス)を活用し、株式を放出せずに運転資金を確保する手法もトレンドです。

グロース期:ユニットエコノミクスの健全性を証明し大型調達へ

PMFを達成し、事業を急拡大させるグロース期に入ると、資金調達の規模も数億円から数十億円単位へと跳ね上がります。このフェーズでは、シリーズAやシリーズBといったラウンドでVCから大型のエクイティ調達を行うほか、ベンチャーデットの活用も視野に入ります。

ベンチャーデットは、「商工組合中央金庫」や「静岡銀行」「SBI新生銀行」「あおぞら企業投資」などが積極的に提供しており、新株予約権(ワラント)を付与する代わりに大型の融資を引き出す手法です。LTVがCACの3倍以上であることや、チャーンレートが業界水準を下回っていることを定量的なデータで証明できれば、エクイティとデットを組み合わせて希薄化を抑えながら事業を加速させることができます。

主要な資金調達手段と特徴一覧

主要な資金調達手段と特徴一覧

自社の状況に合わせて最適な手法を選ぶために、2026年時点のSaaSビジネスに最適な資金調達の方法一覧(6選)とその具体的な活用先を整理します。

  • 公的融資・銀行融資 日本政策金融公庫の「新規開業資金」や、商工組合中央金庫のスタートアップ向け融資などが該当します。創業初期に最適で、経営者保証なしで比較的低金利の資金を確保でき、株式の希薄化を防げます。
  • エクイティファイナンス(VC・エンジェル投資家) 株式を発行して資金を調達します。「ALL STAR SAAS FUND」「DNX Ventures」「One Capital」などのSaaS特化型VCから調達できれば、返済義務がないだけでなく、SaaS特有の成長ノウハウの提供も受けられます。ただし、経営陣の持株比率が低下するリスクがあります。
  • ベンチャーデット 「静岡銀行」「SBI新生銀行」「あおぞら企業投資」「Flex Capital(Fivot)」などが提供する成長企業向けの融資手法です。将来の株式転換権(ワラント)が付与されるケースが多く、エクイティファイナンスと並行して活用することで、希薄化を抑えながらまとまった成長資金を確保できます。
  • RBF(レベニュー・ベースド・ファイナンス) 将来発生するサブスクリプション売上を独自のアルゴリズムで審査し、将来売上を譲渡する形で前倒しで資金を得る手法です。「Yoii Fuel」「マイナビブリッジ」などが代表的で、株式の希薄化も個人の保証も不要で、最短数日でスピーディに着金する点がSaaS企業に高く評価されています。年商約1,000万円規模の法人から利用できる点も特徴です。
  • 補助金・助成金(SaaS開発・事業化向け) 「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)」や「デジタル化・AI導入補助金2026(旧 IT導入補助金)」「小規模事業者持続化補助金」などが挙げられます。自社の新しいSaaSシステム開発や事業化に必要な初期投資の負担を軽減できます。原則として返済不要ですが、後払いとなる点や審査の難易度に注意が必要です。採択率を高めるためには、公募要領に沿った具体的な事業計画書の作成が重要です。詳細は 持続化補助金の事業計画書サンプル|SaaS開発で採択率を高める7つのポイント を参考にしてください。
  • クラウドファンディング・ファクタリング 開発初期のテストマーケティング兼調達として「Makuake」や「CAMPFIRE」を活用するほか、すでにBtoBで売掛金(将来債権)が発生している場合は、「マネーフォワード トランザクションファイナンス」などの売掛金早期資金化(ファクタリング)サービスを利用して、一時的なキャッシュフローの悪化を防ぐ方法もあります。

SaaS事業の根幹となる継続的な収益化の道筋を明確にするための実践的なノウハウについては、サブスク ビジネスモデルで収益化するには?図解と事例で学ぶ7つの成功戦略 もあわせてご確認ください。

まとめ

SaaS法人の成長を支える 資金調達 方法 は多岐にわたりますが、最も重要なのは自社の事業フェーズと目標に合致した最適な手段を選ぶことです。本記事では、以下の主要なポイントを解説しました。

  • フェーズごとの戦略: 創業初期は公的融資、シード・アーリー期は将来性、グロース期は実績とユニットエコノミクスが評価されます。
  • 投資家の評価軸: ARR、CAC、LTVなどのKPIを健全に保ち、事業計画の解像度を高めることが不可欠です。
  • 多様な調達手段: エクイティファイナンスだけでなく、ベンチャーデットや補助金・助成金も有効な選択肢となります。
  • 希薄化リスクの管理: 株式の希薄化を抑えつつ資金を確保するため、デットとエクイティのバランスを考慮しましょう。

これらの知見を活かし、自社のSaaS事業を次のステージへと導くための強固な財務基盤を構築してください。

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伊藤翔太

伊藤翔太

大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。

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