SaaS チャーンレートとは?年率5%以下が目安の計算方法と業界別ベンチマーク
SaaSのチャーンレート(解約率)は年率5%以下が健全の目安。Recurly 2025年調査では B2B SaaS の平均は年率約3.5%。カスタマーチャーンとレベニューチャーンの計算式、エンタープライズ・SMB別ベンチマーク、オンボーディング改善など解約防止策を実データとともに解説します。

SaaS ビジネスを運営するうえで「自社のチャーンレートは高いのか低いのか」を判断するには、業界別のベンチマーク数値が不可欠です。Recurly の 2025 年調査によれば、B2B SaaS の平均年次チャーンレートは約 3.5%。 年率 5% 以下であれば健全 とされており、これを一つの判断基準にできます。本記事では、カスタマーチャーンとレベニューチャーンの計算方法、セグメント別の目安、そして解約率を下げるための実践的な施策を解説します。
SaaS チャーンレートとは
SaaS チャーンレート(解約率)とは、一定期間内にサービスを解約した顧客の割合を示す指標です。サブスクリプションモデルで収益を積み上げる SaaS ビジネスでは、新規顧客の獲得と並んで既存顧客の維持がキャッシュフローに直結するため、最重要 KPI のひとつとして管理されます。
顧客獲得コスト(CAC)は既存顧客維持コストの 5〜7 倍かかるとされています。チャーンレートが高い状態では「ザル」に水を注ぎ続けることになり、MRR(月次経常収益)の成長が阻まれます。ARR(年間経常収益)の拡大戦略と表裏一体で管理すべき指標です(参考: ARR の意味と MRR との違い)。
カスタマーチャーンとレベニューチャーンの違い
SaaS チャーンレートには大きく 2 種類あります。自社のビジネスモデルに合わせて適切な指標を選ぶことが重要です。
| 指標 | 定義 | 適した場面 |
|---|---|---|
| カスタマーチャーンレート | 解約した顧客数 ÷ 期初顧客数 × 100 | 単一プラン・均一単価の B2C サブスク |
| レベニューチャーンレート | 失われた収益 ÷ 期初の総収益 × 100 | 複数料金プランがある B2B SaaS |
| ネットレベニューチャーンレート | (失われた収益 − アップセル増収)÷ 期初の総収益 × 100 | 拡張収益(Expansion MRR)も管理したい場合 |
B2B SaaS では顧客数ではなく 収益ベース で把握するレベニューチャーンが実態に近い指標です。エンタープライズ 1 社の解約が SMB 50 社分の収益に相当するケースもあり、頭数だけ見ると損失を過小評価しやすくなります。
カスタマーチャーンレートの計算方法
カスタマーチャーンレートの計算式は以下の通りです。
カスタマーチャーンレート(%)= 期間内の解約顧客数 ÷ 期間開始時の総顧客数 × 100
計算例: 月初に 200 社が契約しており、その月に 8 社が解約した場合
月次チャーンレート = 8 ÷ 200 × 100 = 4%
年次換算する場合は単純に 12 倍するのではなく、複利計算で算出します。
年次チャーンレート = 1 − (1 − 月次チャーン率)^12
月次 4% の場合、年次換算は約 39%。一見すると高く感じますが、月次 2% でも年次では約 21% になります。 月次と年次を混在させて比較しないことが重要 です。
レベニューチャーンレートの計算方法
グロスレベニューチャーンレート(%)= 期間内に失われた収益 ÷ 期間開始時の総収益 × 100
ネットレベニューチャーンレート(%)= (失われた収益 − アップセル・クロスセルによる増収)÷ 期間開始時の総収益 × 100
ネットレベニューチャーンがマイナス(負の値)になる状態を ネガティブチャーン と呼びます。既存顧客のアップグレードによる増収が解約損失を上回っている状態で、SaaS として最も理想的な成長パターンです。Salesforce や HubSpot といった大手 SaaS はこのネガティブチャーンを実現しています。
計算時の注意点
社内でチャーンの定義を統一しないと、部門間で数字がズレて意思決定を誤ります。以下の 3 点を事前に合意しておいてください。
- ダウングレードをチャーンに含めるか: 上位プランから下位プランへの変更を解約と見なすかどうか
- 無料プランへの移行: 有料プランから無料プランへの降格を含めるかどうか
- 計測タイミング: 解約申請日と解約確定日(契約終了日)のどちらを基準にするか
SaaS チャーンレートの業界別ベンチマーク
自社の数値を評価するには市場のベンチマークとの比較が不可欠です。以下は 2025 年時点の主要データです。
年次チャーンレートの全体平均
Recurly の 2025 年レポート(1,200 社以上の SaaS を対象)によると、B2B SaaS の平均年次チャーンレートは約 3.5% (自発的解約 2.6% + 非自発的解約 0.8%)です。Vitally.io などの調査でも 5% 以下が健全の目安 とされており、これを超える場合はプロダクト・オンボーディング・サポートのいずれかに課題がある可能性が高いです。
(出典: Recurly 2025 B2B SaaS Churn Report)
セグメント別のチャーンレート目安
| セグメント | 月次チャーンレート目安 | 年次換算の目安 |
|---|---|---|
| エンタープライズ(大企業向け) | 1%〜2% | 約 11〜22% |
| ミッドマーケット | 1.5%〜3% | 約 16〜31% |
| SMB(中小企業向け) | 3%〜5% | 約 31〜46% |
| B2C サブスクリプション | 5%〜10% | 約 46〜72% |
エンタープライズはスイッチングコストが高く解約されにくい一方、SMB は予算削減の影響を受けやすいため解約率が高まります。自社のターゲット層を明確にした上で、同セグメントの数値と比較することが重要です。
(出典: Agile Growth Labs「SaaS Churn Rate Benchmarks 2025」)
契約形態別の影響
契約スパンはチャーンレートに直接影響します。月次契約は解約のハードルが低く、複数年契約と比べてチャーンレートが大きく異なります。
- 複数年契約(2.5 年以上): 平均チャーンレート 8.5%
- 月次契約: 平均チャーンレート 16% 以上
(出典: One Capital, Inc「2024 年 SaaS 統計データ」)
この前提を無視して月次契約と複数年契約の顧客を合算すると、プラン別の解約ボトルネックを見逃します。 プラン・契約期間ごとにセグメント分けして集計する ことが正確な分析の前提条件です。
業種別の傾向(2025年)
業種によってチャーンレートは大きく変動します。2025 年の調査では Healthcare SaaS で月次 7.5%(前年比で収益チャーンが 67% 増)、EdTech では月次 9.6%(前年比で倍増)と、特定業種で急上昇が見られます。
(出典: Focus Digital「Average Churn Rate by Industry SaaS: 2025 Report」)
SaaS 解約率が高くなる主な原因
チャーンレートを下げるには、まず解約の根本原因を特定することが先決です。主なパターンは以下の 3 つです。
1. オンボーディング不足による早期離脱
契約後 30〜90 日以内に「Aha!モーメント(価値実感)」に到達できなかった顧客は解約リスクが高まります。機能が多すぎて使いこなせない、初期設定のサポートが薄いなどが典型的な原因です。
2. プロダクトと顧客課題のミスマッチ
「営業トークで期待値を上げすぎた」「実際の課題に対してプロダクトがオーバースペック・アンダースペック」といったフィット不全は、長期的なヘルススコア低下につながります。
3. 非自発的解約(Involuntary Churn)
クレジットカードの期限切れ・決済失敗による自動解約は全解約の 20〜40% を占めるとされています。Recurly の 2025 年調査でも非自発的解約が全体の約 23% を占めており、デュンニング(決済リトライ)の最適化だけでチャーンレートを 1〜2pt 改善できます。
SaaS チャーンレートの改善策

オンボーディングの改善と Time to Value の短縮
初期離脱を防ぐ最も効果的な施策は「価値を感じるまでの時間(Time to Value)」を短縮することです。具体的には以下を実施します。
- インタラクティブなプロダクトツアー: Appcues や Pendo を使い、初回ログイン時に主要機能を体験させる
- マイルストーン型メール自動化: 「初期設定完了」「初回データ入力」などのアクションをトリガーにしたステップメールで脱落を防ぐ
- KPI 設定: 「30 日以内の主要機能利用率 80%」など具体的な指標で進捗を管理する
ヘルススコアによる解約予兆の検知
顧客の利用状況を数値化する「ヘルススコア」を導入し、スコアが閾値を下回った顧客にプロアクティブに介入します。スコアを構成する主な要素は以下の通りです。
- 利用頻度: 週あたりのログイン日数・アクティブユーザー数
- 機能活用度: コア機能の利用率・データ入力頻度
- サポート依存度: 問い合わせ件数・エスカレーション頻度
- 契約継続シグナル: 更新前 90 日以内の上位プラン問い合わせ
Gainsight や Totango といったカスタマーサクセスプラットフォームでヘルススコアを自動集計し、スコアが 40 点以下(100 点満点)になったアカウントに CS 担当が能動的に連絡するフローを設けることが有効です。プロアクティブな顧客体験管理の具体的な実装方法については解約率を下げる AI CX ツール 7 つの戦略も参考にしてください。
非自発的解約(決済失敗)への対策
デュンニング(dunning)と呼ばれる決済リトライの最適化は、最も ROI が高い施策のひとつです。
- カード期限切れの事前通知: 有効期限 60 日前からメール・アプリ内通知で更新を促す
- スマートリトライ: 決済失敗後に 3〜7 日間隔で複数回リトライ(日時を変えることで成功率が上がる)
- 代替決済手段の提示: 銀行振込・別カードへの切り替えを自動案内する
Recurly のデータでは、デュンニング最適化だけで非自発的解約を平均 27% 削減できるとしています。
解約インタビューとプロダクト改善の連動
解約時のアンケート・NPS(ネットプロモータースコア)調査で定性的な声を集め、プロダクトの改善に繋げます。重要なのは「収集して終わり」にしないことで、解約理由をカテゴリ別に分類し、発生頻度と収益インパクトで優先度を付けて開発ロードマップに反映する仕組みが必要です。
また、チャーンレートと合わせて CAC(顧客獲得コスト)と LTV(顧客生涯価値)の比率を管理することで、収益構造の健全性をより正確に評価できます(参考: CAC と LTV の理想的なバランスを作る 3 ステップ)。
よくある質問
SaaS のチャーンレートの目安は年率何%ですか?
Recurly の 2025 年調査によると、B2B SaaS の平均年次チャーンレートは約 3.5% です。一般的には 年率 5% 以下が健全 とされており、これを超える場合はオンボーディングやプロダクトフィットの見直しが推奨されます。ただし、エンタープライズ向けは月次 1〜2%、SMB 向けは月次 3〜5% と、ターゲットセグメントによって目安は異なります。
カスタマーチャーンとレベニューチャーン、どちらを使えばいいですか?
単一プランの B2C サブスクリプションならカスタマーチャーン(顧客数ベース)が適しています。複数料金プランを持つ B2B SaaS は、解約 1 件あたりの収益インパクトが大きく異なるため、レベニューチャーン(収益ベース)を主指標とし、アップセルも加味したネットレベニューチャーンを合わせて追うことを推奨します。
チャーンレートを下げる最も効果的な施策は何ですか?
短期的な効果が高いのは「非自発的解約(決済失敗)の対策(デュンニング最適化)」です。中長期では「オンボーディングの改善による早期離脱防止」と「ヘルススコアを活用したプロアクティブな CS 介入」の組み合わせが最も効果的とされています。Recurly のデータでは、デュンニング最適化だけで非自発的解約を平均 27% 削減できます。
ネガティブチャーンとはどういう意味ですか?
ネガティブチャーンとは、既存顧客のアップグレードやクロスセルによる増収が、解約による損失を上回っている状態です。ネットレベニューチャーンレートがマイナス値になります。Salesforce や HubSpot など、プロダクトの活用深度が上がるにつれて顧客単価が自然と増加する構造を持つ SaaS が実現しています。
まとめ
SaaS チャーンレートの要点を整理します。
- 目安: 年率 5% 以下が健全。B2B SaaS の 2025 年平均は約 3.5%(Recurly 調査)
- 計算方法: カスタマーチャーン(顧客数ベース)とレベニューチャーン(収益ベース)を自社モデルに合わせて選択。月次と年次を混在させない
- セグメント別: エンタープライズ月次 1〜2%・SMB 月次 3〜5%・B2C 月次 5〜10%
- 改善の優先順: まず非自発的解約(決済失敗)対策 → オンボーディング改善 → ヘルススコアによる予兆検知
- 最終目標: ネットレベニューチャーンをマイナスにするネガティブチャーンの実現
チャーンレートは「計算して終わり」ではなく、セグメント別に掘り下げて解約の根本原因を特定し、施策に繋げるサイクルが重要です。

業務を変えるSaaSと、社内AIシステムを。
B2B 向けの SaaS プロダクトや、企業の業務課題を解決する社内向け AI システムを、企画・設計・開発・運用まで一貫対応。マルチテナント・課金・権限管理といった SaaS 基盤から、LLM を活用した社内ナレッジ検索・ドキュメント生成・業務自動化まで、事業と組織の成長に直結するシステムを構築します。

伊藤翔太
大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。
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