リテンション率とは?SaaS・アプリの計算式・業界目安と改善7施策
リテンション率を「単一の数字」ではなく、計算粒度・業界目安・収益指標(NRR/GRR)・改善施策の 4 階層で運用する方法を整理しました。Mixpanel・Amplitude・Pendo の 2024〜2025 ベンチマークを引きながら、Day 7 と 1 か月の早期離脱を抑える具体策まで体系的に解説します。

リテンション率とは、特定期間の開始時に在籍していた顧客のうち、期間終了時にも継続利用している割合を示す指標です。計算式は (期間終了時の顧客数 − 期間中の新規顧客数)÷ 期間開始時の顧客数 × 100 で、B2B SaaS は年間 90〜95%、モバイルアプリは Day 30 で 7〜15% が市場の目安です(Mixpanel・Amplitude・Pendo の 2024〜2025 年公開ベンチマーク)。
本記事を読むと、次の 3 点がわかります。
- 月次・年次・コホート別の正確な計算式と、自社の数値を読む順序
- B2B SaaS/B2C サブスク/モバイルアプリ別の業界ベンチマーク(一次ソース付き)
- LTV を最大化する 7 つの改善施策と、NRR・GRR との関係
「リテンション率」という言葉は、プロダクト KPI 文脈(SaaS/アプリの継続利用率)と、人事領域(従業員定着率)で意味が分かれます。本記事は プロダクト/マーケ担当者向け に絞っています。従業員定着については従業員リテンションの改善方法をご覧ください。
リテンション率の計算式|月次・年次・コホート別
リテンション率の基本式は 1 種類ですが、SaaS とアプリでは「測る粒度」と「期間」が違います。最初に自社のサービス形態に合った式を選んでください。

基本式(カスタマーリテンションレート / CRR)
リテンション率(%) = (期間終了時の顧客数 − 期間中の新規顧客数)÷ 期間開始時の顧客数 × 100
例:月初 100 人、月内に新規 20 人獲得、月末 110 人 → (110 − 20)÷ 100 × 100 = 90% 。
月次(MRR)と年次(ARR)の使い分け
| 粒度 | 主な用途 | 推奨サービス形態 |
|---|---|---|
| 月次リテンション率 | プロダクト改善の PDCA、施策効果検証 | 月額サブスク、PLG 型 SaaS |
| 年次リテンション率 | 投資家・経営層への報告、LTV 試算 | 年間契約の B2B SaaS、エンタープライズ |
| Day N リテンション(D1/D7/D30) | 初期離脱の改善、UX 改善 | モバイルアプリ全般、フリーミアム SaaS |
コホートリテンション(同じタイミングで獲得した顧客群を追跡)
全体平均だけ見ていると、改善した月と悪化した月が打ち消し合って真実が見えません。コホート分析では「2026 年 4 月登録ユーザー」のように獲得時期で顧客を区切り、登録 1 か月後・3 か月後・6 か月後の継続率を縦軸で比較します。Mixpanel・Amplitude・Pendo といったプロダクトアナリティクスの標準機能で、Day N/Week N/Month N の 3 形式を切り替えられます。
LTV や CAC との連動についてはLTV とチャーンレートの改善、サブスクモデル全体の構造はサブスクリプションビジネスモデルを参照してください。
B2B SaaS・B2C サブスク・モバイルアプリの業界ベンチマーク(2024〜2025)
自社の数値を評価するには、サービス形態とターゲットに合わせた目安が必要です。以下は主要プロダクトアナリティクスベンダーが公開している 2024〜2025 年のベンチマーク(一次ソース)から整理した表です。
| サービス形態 | 計測期間 | 中央値(median) | トップ 10%(best-in-class) | 一次ソース |
|---|---|---|---|---|
| B2B SaaS(テクノロジー) | 3 か月 | 2.5% | 15.6% | Amplitude Product Benchmarks 2025 |
| エンタープライズプロダクト | 1 か月 | 35% | 約 60% | Pendo 2025 Software Benchmarks |
| ソフトウェア全般 | 1 か月 / 3 か月 | 39% / 28% | 約 66% / 54% | Pendo 2025 Software Benchmarks |
| モバイルアプリ全般 | Day 1 / Day 7 / Day 30 | 30% / 15% / 7〜10% | — | Mixpanel 2024 Benchmarks Report |
| 未上場 SaaS(NRR) | 年次 | 106% | 120%+ | SaaS Capital 2025 / OPEXEngine |
注意:Amplitude の B2B SaaS 数値は「プロダクト利用ベースのユーザーリテンション」 (ログイン継続している割合)で、契約ベースの顧客リテンション(B2B SaaS の年間 90〜95%)とは別軸です。両方を分けて測定するのが正解です。
契約ベース(カスタマー)リテンションの目安
B2B SaaS の契約ベースは「解約しない顧客の割合」を測ります。SaaS Capital 2025 のレポートでは、未上場 SaaS の中央値は GRR 90%・NRR 106% で、トップは GRR 95%・NRR 120% 超。これがそのまま LTV と企業価値(バリュエーション)に直結します。
プロダクト利用ベース(ユーザー)リテンションの目安
一方、プロダクトアナリティクスで測る「ログインし続けるユーザーの割合」は、上記より厳しい数値になります。Amplitude によれば B2B テクノロジー SaaS の 3 か月後ユーザーリテンションは中央値 2.5%、トップ 10% でも 15.6%。Pendo のソフトウェア全体では 1 か月 39%・3 か月 28% が平均線です。
NRR・GRR とリテンション率の関係
「リテンション率」をプロダクトの KPI として扱う場合、顧客数ベースだけでなく 収益ベース の指標も同時に追う必要があります。混同しやすい 3 つを比較表で整理します。
| 指標 | 何を測るか | 100% 超え | 主な使い手 |
|---|---|---|---|
| CRR(カスタマーリテンションレート) | 顧客数の継続率 | × | プロダクト・CS |
| GRR(Gross Revenue Retention) | 既存顧客の収益維持(拡張除く) | × | 投資家・CFO |
| NRR(Net Revenue Retention) | 既存顧客の収益維持+アップセル | ◯ | 経営・VC |
NRR が 100% を超えるとは「解約や減額があっても、それを上回るアップセル・クロスセルが発生している」状態を意味します。Andreessen Horowitz をはじめとする VC が SaaS を評価する際に最重視するのが、この NRR です(SaaS Capital, FE International 2025)。
事業計画段階で NRR を試算したい場合は、SaaS 事業計画書のテンプレートに MRR 分解と合わせて落とし込むのが現実的です。
LTV を最大化する 7 つのリテンション率改善施策
ここから先は、上の目安に届いていない、もしくは Pendo の best-in-class(1 か月 66%・3 か月 54%)を目指すための具体施策です。新規獲得(CAC)を回収できるかは、結局この 7 つの実装精度で決まります。

1. 「アクティブの定義」とコホート分析を最初に固定する
毎日使うチャットツールと、月 1 回使う経費精算 SaaS では、継続の意味が違います。最初に「週 3 回ログイン × 主機能 1 回以上利用」のように 自社の Active 定義 を文章で残し、コホート分析でその定義を毎月ぶらさないこと。Amplitude や Mixpanel ではコホートを保存し、Day 7/Day 30/Day 90 の 3 軸で並列比較できます。
2. オンボーディングを「Aha モーメント到達まで」で再設計する
Amplitude が公開している分析では、 Day 7 で 7% 以上のリテンションを確保できると、3 か月後のリテンションでも上位 25% に入る確率が 69% に達します。逆に言えば、Day 7 で躓くと長期維持はほぼ不可能。チュートリアル完了率ではなく「Aha モーメント(最初の成功体験)到達率」を KPI に置き、進捗バー・ステップメール・有人ハンドオフのどれが効くかを A/B で検証します。具体的な設計はSaaS オンボーディングの実践ガイドを参照してください。
3. LTV / CAC から逆算した「最低継続期間」を決める
全顧客の平均値を眺めるのではなく、CAC を回収できる継続月数を計算し、その期間に届かず離脱した顧客を例外として扱います。LTV / CAC 比率が 3 を切るなら、リテンション率より先にマーケティング側のターゲット精度(CAC とマーケティング)を疑うのが先です。
4. NPS・CSAT で「批判者」を早期検知する
「このサービスを同僚にすすめる可能性は 0〜10 点でいくつですか」と問う NPS と、機能アップデート直後に取る CSAT を四半期ごとに計測します。NPS が 0〜6 の「批判者」は 6 か月以内に解約する確率が中立者の 3〜5 倍と言われており、ヒアリングは 7 日以内が鉄則です。
5. 顧客ヘルススコアでサイレント解約を防ぐ
解約予兆は「ログイン頻度の低下」「主要機能の利用停止」「サポートチケットの増加」のような行動データに必ず現れます。次のように点数化し、合計が閾値を切ったら CS 担当者にアラートが飛ぶ仕組みを Salesforce や Gainsight、もしくは自社 DWH(BigQuery/Snowflake)で構築します。
- 過去 7 日間ログインなし:−10 点
- 主機能利用が週 3 回以上:+5 点
- サポートチケット 30 日以内に 2 件以上:−5 点
- 管理者ユーザーのログアウト連続 14 日:−15 点
6. 解約データを 30 日以内にプロダクトへ還元する
解約理由を「顧客の都合」で片付けると、同じ理由で次の顧客も離脱します。CS がヒアリングした生の声を Notion/Linear などに集約し、プロダクトチームが 30 日以内に意思決定 することを SLA として運用するのが現実的です。

7. カスタマーサクセスをプロアクティブ運用に切り替える
カスタマーサポートが「問題発生後」に対応するのに対し、カスタマーサクセスは「顧客の KPI を先に動かす」職務です。四半期ごとの QBR(Quarterly Business Review)で顧客の成果数値を提示し、利用率の低い機能には個別レクチャー、利用率が高い機能はアップセル提案、という非対称な打ち手を設計します。チャーン全体の構造はSaaS のチャーンレート目安と改善で別途解説しています。
リテンション率に関するよくある質問
リテンション率とリピート率の違いは何ですか?
リテンション率は「サブスク/継続契約の維持率」、リピート率は「単発購入の再購入率」を指します。SaaS/アプリでは前者、EC では後者が主指標です。両方を混ぜて議論すると分母が不一致になるので注意してください。
リテンション率と DAU・MAU の関係は?
DAU/MAU はその日・その月にアクティブだったユーザー数、リテンション率は「過去に獲得した特定コホートが今も残っている割合」です。DAU が伸びていても新規が多いだけで既存が抜けているケースが多いため、DAU と並んで Day 30 リテンションを見るのが正解です。B2B SaaS では DAU/MAU 比率 40% 以上が一つの目安とされます(Mixpanel 2024 Benchmarks)。
リテンション率はどのくらいの頻度で確認すべきですか?
毎日利用される SNS・業務チャットなら日次・週次、月 1 回利用の経費精算 SaaS なら月次が基本です。コホート分析は最低でも月次、できれば週次で更新し、3 か月以上の長期コホートも同時に追跡します。
リテンション率とチャーンレートの違いは?
リテンション率=継続している顧客の割合、チャーンレート=解約した顧客の割合で、両者は表裏一体です。月次チャーンレート 1% は年次でおよそ 11.4% に相当します。詳細はチャーンレートの計算方法と目安を参照してください。
NRR が 100% を超える状態とは?
既存顧客からのアップセル・クロスセル収益が、解約・減額分を上回っている状態を指します。VC が SaaS を評価する際は NRR 110% 以上が「投資検討に値する」目安、120% 以上で best-in-class とされます(SaaS Capital 2025)。
まとめ|リテンション率を「単一の数字」ではなく構造で捉える
リテンション率を上げる近道は、単一の数字を追いかけることではなく、 計算粒度・業界目安・収益指標(NRR/GRR)・改善施策 の 4 階層を同時に運用することです。
- 計算粒度 :月次/年次/Day N/コホートを目的別に使い分ける
- 業界目安 :Mixpanel・Amplitude・Pendo の一次ソースで自社の位置を確認する
- 収益指標 :CRR・GRR・NRR を分けて経営層と CS で別の言葉で会話する
- 改善施策 :オンボーディング・ヘルススコア・プロアクティブ CS をセットで回す
数値の改善は、Day 7 と 1 か月の早期離脱を抑える施策から最も大きく動きます。本記事のチェックリストを使って、自社のリテンション率を「数字」から「構造」に変えていきましょう。

業務を変えるSaaSと、社内AIシステムを。
B2B 向けの SaaS プロダクトや、企業の業務課題を解決する社内向け AI システムを、企画・設計・開発・運用まで一貫対応。マルチテナント・課金・権限管理といった SaaS 基盤から、LLM を活用した社内ナレッジ検索・ドキュメント生成・業務自動化まで、事業と組織の成長に直結するシステムを構築します。

伊藤翔太
大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。
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