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伊藤翔太伊藤翔太

飛び地参入で失敗しない新規事業フレームワーク6手順|成功率2割・7Pay/MSJ/SKIP事例で学ぶ飛び地戦略【2026年版】

飛び地参入は新規事業の中でも成功率2割以下と言われる難所です。PwC 2025年実態調査によれば主力事業化に至るのは中小企業で6.4%、大手でも17.1%にとどまります。7Pay(2019年・3ヶ月で廃止)・三菱重工 スペースジェット・Amazon Fire Phone・ユニクロSKIPの4失敗事例と、富士フイルム アスタリフト(写真→化粧品で5〜6年で100億円超)・エムスリー(ソネット飛び地から時価総額5兆円超)の2成功事例を比較し、独立組織・MVP・撤退基準など飛び地戦略のリスクを抑える6つの新規事業フレームワークを解説します。

飛び地参入で失敗しない新規事業フレームワーク6手順|成功率2割・7Pay/MSJ/SKIP事例で学ぶ飛び地戦略【2026年版】
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飛び地戦略 とは、自社の既存事業のアセット(顧客基盤・技術・ノウハウ)が直接活かせない領域へ新規参入する新規事業の選択肢です。神戸大学大学院の三品和広教授は「立地」の概念を用いて、本業と立地が全く異なる飛び地の新規事業は失敗確率が極めて高いと指摘しています(出典: 神戸大学大学院経営学研究科 三品和広研究室)。Bain & Company の Chris Zook の調査でも、本業から1.5〜2歩離れた隣接参入の平均失敗率は約75%とされます(出典: Beyond the Core | Bain & Company)。PwC が2025年に公表した新規事業開発実態調査では、 投資回収まで至った「成功企業」は全体の約2割 、主力事業化までたどり着けるのは中小企業で6.4%・超大手企業でも17.1%にとどまります(出典: 新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025年 | PwC Japanグループ)。

具体的には、Amazon Fire Phone(2014年・170百万ドル超の在庫評価損)、三菱重工 スペースジェット(2023年2月開発撤退)、ユニクロの野菜事業「SKIP」、セブン&アイの「7Pay」(2019年・サービス開始から約3ヶ月で廃止)のように、ブランド力や資金力があっても撤退に至る例は枚挙にいとまがありません。一方で、富士フイルム アスタリフトやソネット発のエムスリーは、外見上は飛び地でありながら 技術立地 を活かして成功した代表例です。

本記事で得られるのは次の3点です。

  • 飛び地戦略・隣接領域・多角化の違いと、失敗率75%・成功率2割という構造的なリスク
  • 三菱重工・Amazon・ユニクロ・7Pay の4失敗事例と、富士フイルム アスタリフト・エムスリーの成功条件の比較
  • 独立組織・MVP・撤退基準など、飛び地参入のリスクを抑える6つの新規事業フレームワーク

飛び地戦略とは?隣接領域・多角化との違い(早見表)

飛び地戦略は、アンゾフの成長マトリクスでいう「多角化(新市場 × 新製品)」の中でも、既存事業との関連性が薄い参入を指します。Chris Zook の Adjacency 戦略(隣接成長戦略)では、本業からの距離(step)によって成功確率が大きく変わることが示されています。

飛び地・隣接・既存の比較早見表

区分既存事業との距離代表的な参入領域失敗率の目安
既存深耕0歩同じ顧客に新機能SaaS のプラン拡張・アップセル
隣接領域(adjacency)1〜1.5歩既存顧客に新カテゴリ/既存技術を別チャネルに中(約50%前後)富士フイルム → 医療画像、Slack → Slack Connect
飛び地(far adjacency / 多角化)2歩以上新顧客 × 新技術 × 新チャネル約75%(Zook 調査)/成功率2割(PwC 2025調査)Amazon Fire Phone、三菱重工 スペースジェット、ユニクロ SKIP、7Pay

要点として、飛び地戦略は 「2歩以上離れている」 ことを自覚した上で、後述の独立組織・MVP・撤退基準などの仕組みでリスクを織り込まなければ、ブランド力や資金力で押し切ることはほぼ不可能と捉えるのが現実的です。

飛び地参入の失敗事例4選|共通する撤退の構造

飛び地戦略を語る際に必ず参照される失敗事例を、撤退時期・損失規模・要因の3点で整理します。事例の固有名詞だけ覚えても役に立たないため、「何が共通していたか」に注目してください。

事例1: 三菱重工 スペースジェット(2023年2月 開発撤退)

三菱重工業は2008年に国産リージョナルジェット機の事業化を決定しましたが、2023年2月に開発撤退を発表しました(出典: 三菱重工のMSJ撤退、「失敗の要因」と「経営への影響」 | ニュースイッチ)。型式証明(TC)取得のノウハウが不足し、追加で年間1,000億円規模の投資が必要と判断されたことが主因です。15年間でチーフエンジニアを3回交代させた組織体制も指摘されています。重工業の技術力を持ちながら、航空機の認証プロセスという別レイヤーで詰まった典型例です。

事例2: Amazon Fire Phone(2014年発売・2015年9月 販売終了)

Amazon は2014年7月にFire Phoneを米国で発売しましたが、2014年10月時点で約170百万ドルの在庫評価損を計上し、2015年9月に生産終了となりました(出典: Ouch: Amazon takes $170M write-down on Fire Phone – GeekWire)。iPhone・Galaxy と同価格帯(2年契約 199ドル)で投入したものの、Google Play の100万本超に対し Amazon Appstore は24万本程度で、Gmail・YouTube・Maps が使えないことが致命傷となりました。EC とハードでは「補完アプリのエコシステム」という顧客資産が完全に別物だったことが構造要因です。

事例3: ユニクロ「SKIP」野菜事業(2002年 撤退)

ユニクロを擁するファーストリテイリングは2002年に野菜の生鮮宅配事業「SKIP」へ参入しましたが、約2年で事業から撤退しました(業界要因の整理は 新規事業の「飛び地」とは?~飛び地は危険?避けるべき?~ | 株式会社unlock も参照)。アパレルで培ったSPA(製造小売)のオペレーションは、生鮮の鮮度管理・物流・季節変動という別の制約条件には適用できなかった事例として知られています。

事例4: セブン&アイ「7Pay」(2019年7月開始・9月30日 サービス廃止)

セブン&アイ・ホールディングスは2019年7月1日にバーコード決済「7Pay」をリリースしましたが、初日からリスト型アカウントハッキングによる不正アクセスが発生し、 7月31日時点で被害者808人・被害額3,861万円超 に拡大しました。9月30日24時をもってわずか約3ヶ月でサービスを廃止しています(出典: 「7pay(セブンペイ)」 サービス廃止のお知らせとこれまでの経緯、今後の対応に関する説明について | セブン&アイ・ホールディングス7payの不正利用についてまとめてみた - piyolog)。リアル小売の決済オペレーションと、決済アプリ/オンライン認証セキュリティでは要求される技術立地が別物で、二要素認証の不採用などセキュリティ設計の初歩で躓いた点が決定打となりました。

4事例に共通する撤退の構造

観点三菱重工 MSJAmazon Fire Phoneユニクロ SKIPセブン&アイ 7Pay
既存の強み重工業の機械設計EC・物流・端末(Kindle)アパレル SPAリアル小売・既存決済
飛び地で必要だった資産型式証明の認証ノウハウアプリ・地図エコシステム生鮮の鮮度管理・季節変動対応決済アプリのセキュリティ設計(二要素認証)
共通する誤算自社の強みでカバーできると判断価格・規模で押し切れると判断オペレーションは応用できると判断リアル決済の延長で構築できると判断
撤退判断のスピード開発15年・撤退2023年発売〜在庫評価損 約4ヶ月約2年約3ヶ月(最速)

4事例に共通するのは、 「既存の強み」と「飛び地で必要な資産」のギャップを過小評価したまま投入規模を先に決めてしまった 点です。特に7Payは「3ヶ月で撤退」という最速の判断で被害拡大を止めた一方、三菱重工 MSJ は15年間意思決定を引き延ばし損失を拡大させたという対比が、後述する手順5「撤退基準を事前に明文化する」フレームワークの重要性を裏付けています。

飛び地から成功した事例|富士フイルム アスタリフトとエムスリー

失敗率75%の領域である以上、成功条件を理解せずに参入するのは無謀です。日本企業で最もよく引用される飛び地参入の成功事例として、富士フイルムの化粧品事業「アスタリフト」と、ソニーグループのプロバイダー事業ソネットから派生した医療プラットフォーム「エムスリー」を取り上げます。

成功事例1: 富士フイルム アスタリフト(写真フィルム → 化粧品)

富士フイルムは2004年にデジタル化で写真フィルム市場が縮小する中で多角化を経営判断し、2007年に「アスタリフト」を発売、参入から5〜6年で100億円超、2012年度には135億円の売上規模に到達しました(出典: 戦略ケース 急成長する富士フイルムの化粧品「アスタリフト」 | JMR生活総合研究所アスタリフト ─ 富士フイルム発・写真技術を化粧品に転用した異業種参入の成功例 | intrastar)。

顧客から見た飛び地度技術から見た距離
写真 → 化粧品(顧客は完全に別)フィルム主成分の コラーゲン 、写真用粒子の ナノテクノロジー 、色あせ防止の 抗酸化技術 (アスタキサンチン)はそのまま転用

外見上は「写真フィルムから化粧品」と完全な飛び地に見えますが、 技術スタックで見れば隣接領域 でした。三品和広教授が指摘する「立地」が、製品分類ではなく企業の技術立地で見ると地続きだった、というのがポイントです。

成功事例2: エムスリー(プロバイダー → 医療従事者プラットフォーム)

ソニーコミュニケーションネットワーク(現ソニーネットワークコミュニケーションズ/So-net)の出資により、マッキンゼー出身の谷村格氏が2000年に「ソネット・エムスリー」を設立、医療従事者向けポータル「m3.com」を立ち上げました。設立4年後の2004年に東京証券取引所マザーズへ上場、2007年に東証一部に指定替えされ、2025年3月期は 連結売上収益2,849億円(前期比19.3%増)・国内医師会員34万人以上 にまで成長しています(出典: エムスリー株式会社 2025年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)企業情報 | エムスリー株式会社)。

「インターネットプロバイダー」と「医療従事者プラットフォーム」は顧客から見れば完全な飛び地ですが、 「インターネット上のクローズドコミュニティ運営」「メールマガジンによる広告配信」「会員データを活用したマーケティングリサーチ」 というプロバイダー事業由来の技術立地が、医師という閉鎖専門コミュニティに最適化された Web プラットフォームを成立させました。

成功事例から導かれる飛び地参入の判断ルール

  • 顧客から見た飛び地 」だけでなく「 技術・オペレーション・認証から見た距離 」を別軸で測る
  • 既存の技術資産を 3 つ以上具体的に転用できる場合のみ、本格投資へ進む(アスタリフトはコラーゲン・ナノテク・抗酸化、エムスリーは閉鎖コミュニティ運営・配信基盤・会員データの3点が揃っていた)
  • 上記が揃わない場合は、後述する独立組織・MVP・撤退基準の整備を「投資の最低条件」として課す

飛び地参入に成功した企業に共通する3つの条件

飛び地参入の12成功事例を分析した結果、外見の華やかさとは裏腹に、極めて共通点の多い構造が浮かび上がっています(一次分析: 「飛び地」禁断の新規事業〜12の新旧・コト・モノ成功事例分析〜 | 株式会社unlock)。

条件1: 全て「成長市場」に参入している

unlock の12事例分析では、 全ての成功事例が成長市場への参入 だったとされています。撤退寸前の既存事業のように、市場が縮小しているフェーズで飛び地に振っても、構造的に成功確率は高まりません。アスタリフトはアンチエイジング化粧品市場、エムスリーはインターネット医療情報市場の黎明期に投入されています。

条件2: 既存事業の減少懸念が「参入動機」になっている

12事例中7事例(約58%)で、参入のきっかけは「既存市場の減少懸念」でした。富士フイルムは写真フィルムのデジタル化による収益縮小を起点に化粧品へ多角化、ソニーグループのソネットも通信市場のコモディティ化を見据えて医療プラットフォームに資源を振っています。「攻めの飛び地」より「守りの転進」のほうが、覚悟と投資配分が決まりやすいという構造的な背景があると考えられます。

条件3: 発案者が経営トップとは限らない

12事例中、発案者やリードした人が経営トップだったのは半分以下にとどまります。むしろ社内起業家・出向役員・外部からの招聘人材が主導するケースが目立ち、その意思決定の独立性を担保したのが 手順2で扱う独立組織体制 でした。

ここまでが 何を飛び地と呼ぶか/どこに失敗の構造があるか/どこに成功の構造があるか の整理です。ここからは、上記の構造リスクを抑える6つの新規事業フレームワークを順に解説します。

手順1:市場ニーズの検証と把握

市場ニーズの把握

新規事業のフレームワークを活用する上で、最初のステップとなるのが「市場ニーズの正確な把握」です。とりわけ、自社の既存事業から離れた飛び地領域への参入では、これまでの知見が通用しないため、事業化の判断基準を明確にする必要があります。

市場ニーズの欠如が最大の失敗要因

新規事業が頓挫する最大の要因は、顧客が求めていない製品を作ってしまうことです。CB Insights の調査によると、スタートアップが失敗する理由の42%が「市場ニーズの欠如」であると報告されています(出典: The Top 12 Reasons Startups Fail)。

既存の顧客基盤や業界知識が活かせない飛び地領域では、市場理解が浅くなりやすく、このリスクがさらに高まります。そのため、新規参入の初期段階において、顧客の課題を深く掘り下げ、ゼロから事業アイデアを生み出すフレームワークも活用しながら市場ニーズを客観的に検証することが不可欠です。

市場動向を把握し自社の成長戦略を描く上では、新規事業の立ち上げを成功に導く実践論など、体系的なアプローチを参考にすることも有効です。自社の現状を客観的に分析し、リスクを最小化する準備を整えましょう。

手順2:既存のしがらみを断つ独立組織の構築

独立組織の構築

新規事業のフレームワークを活用する上で、2つ目のポイントは「適切な組織体制の構築」です。大企業による新規事業創出の成功率が低い背景には、既存事業のしがらみや意思決定プロセスの遅さがあります。三菱重工 MSJ がチーフエンジニアを15年間で3回交代させた末に撤退した例も、既存組織のガバナンスから新規事業を切り離せなかった構造の問題と読めます。

既存事業のしがらみを断つ独立組織の必要性

Harvard Business Review の指摘によれば、既存事業の成功による組織的な慣性やリスク回避傾向、意思決定プロセスの遅さがイノベーションを阻害する大きな要因となっています(出典: The Hard Truth About Corporate Innovation)。

そのため、飛び地戦略においては、既存事業から切り離した独立組織を立ち上げ、機動力を高めることが不可欠です。エムスリーがソネット本体ではなく 独立した別法人「ソネット・エムスリー」 として立ち上がり、上場まで含めた意思決定の独立性を担保できた構造は、まさにこの教科書例といえます。既存の評価基準やリソース配分のルールから切り離した専門チームを組成する判断が求められます。

市場のスピードに合わせて柔軟に動ける体制を構築することが、成功への第一歩です。独立した組織が顧客の声を直接聞き、迅速に施策へ反映できる環境を整えることで、事業化リスクを大幅に低減できます。また、新規事業が直面する社内調整の壁を乗り越えるには、新規事業立ち上げ特有のきつい現実と回避策を事前に把握しておくことも重要です。

手順3:独自のバリュープロポジション設計

バリュープロポジションの設計

新規事業の立ち上げにおいて、既存の強みから離れた飛び地領域へ挑戦する際は、未知の市場に対するリスク管理が不可欠です。ここでは、新規事業のフレームワークの手順3として、独自の価値創造と市場選定のアプローチを整理します。

飛び地領域における市場評価とバリュープロポジション

成功する新規事業、特に革新的な SaaS は、既存市場の常識を打ち破るような独自の価値を提供しています。富士フイルム アスタリフトが「写真フィルム由来のコラーゲン・ナノテク・抗酸化」という独自の技術スタックを訴求できたように、また、エムスリーが「医師という閉鎖専門コミュニティに最適化された情報配信」という他社が真似しにくい価値提案を成立させたように、既存事業の延長線上ではない飛び地ならではの価値創造において有効なのが、バリュープロポジションキャンバスという思考法です。顧客のジョブ(片付けるべき用事)、ペイン(悩み)、ゲイン(恩恵)を深く理解し、それらに対する独自の製品やサービスを設計します(出典: Value Proposition Canvas | Strategyzer)。既存市場のプレイヤーが解決できていない、あるいは気づいていない顧客課題を発見し、明確なバリュープロポジションを構築することが成功の鍵となります。

Vertical SaaS市場における飛び地戦略

近年の SaaS 市場は成長を続けていますが、汎用的な Horizontal SaaS は飽和しつつあります。その中で、特定の業界課題に深く特化した Vertical SaaS が、SaaS業界の新たな成長機会として注目を集めています(出典: Vertical SaaS Is The Next Frontier - Andreessen Horowitz)。

専門性や深い顧客理解が求められるニッチな飛び地領域への参入は、高い参入障壁を築きやすく、強固な顧客ロイヤルティを獲得できる可能性を秘めています。あえて飛び地的なニッチ市場へ参入し、独自の市場評価を確立することが、新たな成長機会となるでしょう。

手順4:MVPとアジャイル開発によるリスク最小化

MVPとアジャイル開発

新規事業を検討する上で見落としてはならない4つ目のポイントは、不確実性の高い市場におけるリスク最小化と、早期の市場評価を獲得するための開発手法です。前述した独立組織と明確なバリュープロポジションが整った後は、それをいかに素早く形にするかが問われます。

MVPとアジャイル開発によるリスクの最小化

未知の市場である飛び地に参入する際、最初から完璧な製品を目指すことは極めて高いリスクを伴います。Amazon Fire Phone が1機種をフル機能で大規模投入して4ヶ月で在庫評価損170百万ドルを計上したのも、7Pay が二要素認証を後回しにしたままサービスインして3ヶ月で廃止に追い込まれたのも、いずれも「最初の一発」に賭けすぎた構造の典型です。ここで不可欠となるのが、アジャイル開発と MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品) を用いたアプローチです。

ソフトウェア開発の専門家であるマーティン・ファウラー氏は、アジャイル開発が不確実性に対応するための効果的な手法であることを強調しています(出典: The New Methodology)。特に SaaS ビジネスにおいては、MVP を用いて製品を早期に市場へ投入し、実際の顧客からのフィードバックを基に反復的に改善していく手法が欠かせません。

多額の初期投資を行う前に、顧客のリアルな反応から PMF(プロダクトマーケットフィット:市場適合性) の兆しを掴むことで、事業の失敗リスクを最小限に抑えられます。新規事業のフレームワークの実践において、市場のニーズと製品がずれるリスクを大幅に軽減できるのが、このアジャイルな姿勢です。アジャイル運用の落とし穴を避けるには、アジャイル開発のメリット・デメリットと失敗事例 もあわせて確認しておくと安全です。

手順5:リーンスタートアップによる仮説検証と撤退基準

リーンスタートアップによる仮説検証

新規事業のフレームワークを活用する上で、5つ目の重要なポイントは、不確実性に対処するための仮説検証プロセスと 撤退基準を事前に明文化 することです。MVP を開発した後は、その製品が本当に市場に受け入れられるかを客観的に評価しなければなりません。三菱重工 MSJ(15年)、Amazon Fire Phone(4ヶ月)、ユニクロ SKIP(2年)、7Pay(3ヶ月)に共通していたのは「撤退判断の質」であり、これは事後ではなく事前に決めておくべき項目です。特に7Pay の3ヶ月撤退は、被害拡大を最小限に止めたという意味で、判断スピードの面で他の事例より優秀だったとも評価できます。

リーンスタートアップによる仮説検証と判断ポイント

知見の少ない飛び地市場では、完璧な計画を立ててから実行に移すアプローチは通用しません。ここで不可欠なのが、市場に投入した MVP から顧客のフィードバックを得て、「構築・計測・学習」のサイクルを高速で回すリーンスタートアップの思考法です(出典: The Lean Startup)。

この手法は、不確実性の高い新規事業においてリスクを大幅に軽減します。初期の仮説が市場に受け入れられなかった場合は、得られたデータをもとに戦略の方向転換である ピボット を速やかに行います。同時に、検証を繰り返しても一定の基準をクリアできない場合は、客観的なデータに基づいて 赤字の新規事業をいつ撤退するか を見極める決断も重要な判断ポイントです。そのためには、あらかじめ 事業フェーズに合わせたKPI を設定し、継続的に数値をモニタリングする仕組みが求められます。

あらかじめピボットや撤退の判断基準を明確にしておくことで、致命的な失敗を防ぎながら市場参入のチャンスを最大化できます。

手順6:現場での運用と継続的な軌道修正

新規事業を立ち上げる際、最後のポイントとなるのが、これまでに構築した戦略や手法を現場でいかに運用していくかという実践面です。特に既存事業から離れた飛び地領域では、想定外の事態が日常的に発生します。

現場運用の注意点と継続的な改善

現場で運用する際の最大の注意点は、仮説検証のサイクルを形骸化させないことです。MVP の投入やアジャイルな開発体制が整っていても、顧客のリアルな声に耳を傾け、製品に反映させるプロセスが機能していなければ意味がありません。

時間をかけて開発した製品への愛着から、市場に受け入れられていない事実から目を背けてしまうケースは少なくありません。検証データに基づき、柔軟に方向転換を行う決断力を組織全体で共有することが求められます。

要点として、不確実性の高い領域では、新規事業のフレームワークを活用して小さく始め、顧客のリアルな反応を基に事業を軌道修正し続ける泥臭い実行力が、飛び地戦略への参入を成功に導く鍵となります。

よくある質問(FAQ)

飛び地戦略と多角化戦略は何が違うのですか?

多角化戦略はアンゾフの成長マトリクスにおける「新市場 × 新製品」全般を指す広い概念です。その中でも、既存事業との関連性が薄い参入を 飛び地 と呼ぶことが多く、本業から1.5〜2歩以上離れた領域への参入が該当します(Chris Zook の Adjacency 戦略の整理)。隣接領域への多角化は成功率が比較的高く、飛び地は失敗率約75%・成功率2割と難度が一段高いと考えてください。

飛び地戦略はやめるべきですか?

一律にやめるべきではありません。富士フイルム アスタリフトやエムスリーのように、外見は飛び地でも技術・オペレーション・認証のいずれかで隣接領域として再定義できる場合は成功の可能性があります。判断軸は「 顧客から見た距離 」と「 技術から見た距離 」を分けて評価することです。両方で2歩以上離れている場合は、独立組織・MVP・撤退基準の整備を投資判断の前提条件にしてください。

飛び地参入の成功率を上げる具体的な方法はありますか?

最も効果が高いのは「投資前に撤退基準を明文化する」ことです。三菱重工 MSJ(15年)、Amazon Fire Phone(4ヶ月で170百万ドル評価損)、ユニクロ SKIP(2年)、7Pay(3ヶ月)に共通するのは、撤退判断の質に課題があった点でした。MVP を投入する前に、KPI のしきい値・期間・撤退条件をボード議事録レベルで決めておくと、組織的な慣性に抗いやすくなります。

飛び地と隣接領域はどう見分けますか?

実務的には次の3点でスコアリングします。①既存顧客が新事業の顧客とどれだけ重なるか、②既存の技術スタック(開発・物流・認証など)がどれだけ転用できるか、③既存のチャネル・営業組織がどれだけ使えるか。3点ともゼロに近ければ飛び地、1〜2点で部分的に転用できれば隣接領域として扱う、というのが現実的な目安です。

SaaS 企業にとっての飛び地戦略はどう考えれば良いですか?

Horizontal SaaS の飽和が進む中、特定の業界に深く特化した Vertical SaaS は、外見は飛び地に見えても既存の SaaS 基盤(マルチテナント・課金・認可)を技術立地として転用できるため、隣接領域として整理できる場合が多いです。逆に、SaaS 企業がハードウェアや生鮮物流に進出する場合は、本物の飛び地として独立組織・撤退基準の整備が必須となります。

飛び地参入の成功事例で、日本企業の代表例は何ですか?

富士フイルム アスタリフト(写真フィルム→化粧品、5〜6年で100億円超)とエムスリー(プロバイダー→医療従事者プラットフォーム、2025年3月期 連結売上2,849億円・国内医師34万人超)が双璧です。共通点は、外見上は完全な飛び地に見えても、コラーゲン/ナノテク/抗酸化(富士フイルム)や、閉鎖コミュニティ運営/配信基盤/会員データ(エムスリー)といった 3つ以上の技術資産が裏で転用されていた 点で、純粋な「ゼロから新規」ではなく 技術立地から見た隣接領域 だったことです。

PwC 2025年の実態調査では、飛び地を含む新規事業の主力事業化率はどのくらいですか?

PwC コンサルティングの「新規事業開発の取り組みに関する実態調査2025年」によれば、投資回収まで至った成功企業は全体の約2割、目標とする主力事業化に至った企業は中小企業で6.4%・超大手企業でも17.1%にとどまります。アイデア起案したもののうち投資回収を達成した割合も21%と、規模を問わず厳しい数字です。逆にいえば、成功企業は「企画・管理機能の強化」と「新規事業組織の独立性確保」で他社と差をつけている、というのが同調査の結論です。

まとめ

飛び地戦略は、既存事業から離れた領域への参入であり、Chris Zook の調査では失敗率約75%、PwC 2025年実態調査では投資回収まで至るのは約2割(主力事業化は大手で17.1%・中小で6.4%)と、新規事業の中でも特に難度が高い選択肢です。三菱重工 スペースジェット(2023年撤退)、Amazon Fire Phone(2014年・170百万ドル評価損)、ユニクロ SKIP(2002年撤退)、セブン&アイ 7Pay(2019年・3ヶ月で廃止)に共通するのは、既存の強みと飛び地で必要な資産のギャップを過小評価したまま投入規模を先に決めてしまった点でした。一方で富士フイルム アスタリフト(5〜6年で100億円超)とエムスリー(2025年3月期 連結売上2,849億円)は、技術立地での隣接領域として整理できる強みを 3 つ以上揃えていたために、外見上の飛び地を成功事例に変えることができました。

本記事では、この構造的なリスクを踏まえて飛び地参入を進めるための新規事業フレームワークを次の6手順で解説しました。

  • 市場ニーズの正確な把握と、顧客課題の深掘り
  • 既存事業のしがらみから切り離した独立組織による迅速な意思決定
  • 顧客のジョブ・ペイン・ゲインを深く理解した独自のバリュープロポジション構築
  • MVP(最小実行可能製品)とアジャイル開発を活用した早期の市場投入
  • リーンスタートアップの考え方を取り入れた、データに基づくピボットと 事前に明文化された撤退基準
  • 現場での仮説検証サイクルの徹底と、継続的な軌道修正

新たな SaaS ビジネスの創出を目指す経営層や事業責任者の皆様にとって、本記事が SaaSシステム開発のプロセス を含めた具体的な事業戦略策定の一助となれば幸いです。

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伊藤翔太

伊藤翔太

大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。

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BtoB SaaSのインスタマネタイズ3ステップ|即実践できる収益化手順【2026年版】

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BtoB SaaSがInstagramで収益化する3ステップ実践ガイド。フォロワー数より保存率・リンククリック率を重視し、ホワイトペーパーで需要検証→Stripe Billing/Lagoで課金接続→Insightsで改善。2023年10月施行のステマ規制対応も含め、2026年に通用するやり方を網羅します。

業務を変えるSaaSと、社内AIシステムを。

B2B 向けの SaaS プロダクトや、企業の業務課題を解決する社内向け AI システムを、企画・設計・開発・運用まで一貫対応。マルチテナント・課金・権限管理といった SaaS 基盤から、LLM を活用した社内ナレッジ検索・ドキュメント生成・業務自動化まで、事業と組織の成長に直結するシステムを構築します。