SaaS開発
伊藤翔太伊藤翔太

SaaS開発の進め方完全ガイド【2026年版】|要件定義からリリースまで7ステップとMoSCoW・費用相場

SaaS開発を発注・内製する事業責任者と開発リーダー向けに、要件定義からリリース・運用までを7ステップで体系化。MoSCoW法によるアジャイル要件定義、SaaS必須の非機能要件チェックリスト、Scrum Guide 2020準拠のスプリント運用、開発費用の段階別目安まで、判断軸を絞って解説します。

SaaS開発の進め方完全ガイド【2026年版】|要件定義からリリースまで7ステップとMoSCoW・費用相場
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SaaS開発の進め方は、 要件定義→MoSCoWによる優先順位付け→マルチテナント設計→アジャイル開発→テスト→CI/CDリリース→運用改善 の7ステップで進めます。一括で全機能を作り切るウォーターフォール型ではなく、コア機能のみをMVPとしてリリースし、顧客フィードバックを織り込みながら機能を「育てる」のがSaaS特有の進め方です。本記事を読むと次の3点がわかります。

  • 7ステップの全体像とSaaS特有の判断ポイント
  • MoSCoW法を使った要件の優先順位付けと、非機能要件の落とし穴
  • 開発費用の段階別目安(300〜1,000万円)と外注時のチェック観点

ステップ1: ターゲット顧客のヒアリングと要件定義

SaaS開発はまだ顧客契約がない段階で先行投資する事業です。そのため、 最初に行うべきは「誰のどの課題を、いくらの月額で解決するか」を明確にするヒアリング です。机上の仮説だけで要件定義に入ると、リリース後に「使われない機能」が大量に残ります。

コア機能を絞り込む3つの問い

要件定義の最大の判断は「初期リリースに何を入れないか」です。次の3つに答えられない機能はMVP(Minimum Viable Product)から外します。

  • 想定ユーザーの最大の課題を直接解決するか
  • この機能がなければ翌月の契約継続が起きないか
  • StripeやAuth0などの外部サービスで代替できないか

freeeはプロジェクト管理 freeeの新規プロダクト開発で、まずプロトタイプ段階でユーザーの使い勝手に絞った試作を行い、本格開発フェーズで管理機能や利用状況把握機能を追加するという段階的なアプローチを採用しました(出典: CodeZine「新規SaaSの企画検討からリリースまで! freeeの事例に学ぶプロダクト開発一覧」https://codezine.jp/article/corner/832 )。

SaaS要件定義で必ず押さえる4観点

単一企業向けの受託システム開発と異なり、SaaSでは複数顧客を同時に支える前提が要件に加わります。

要件カテゴリSaaS特有の観点
マルチテナント複数顧客のデータを安全に分離・共有できる設計か
権限管理テナント単位のロール・行レベル権限の粒度は十分か
課金・サブスクリプションプラン変更・解約・請求の自動化を想定しているか
SLA・稼働率月間稼働率99.5%など、契約で保証する水準を定義したか

アジャイル前提でもこれらの「初期段階で固定すべき要件」は紙の要件定義書に残します。要件定義の役割と作り方は「アジャイル開発の要件定義は不要?失敗を防ぐ設計書とドキュメント作成の3ステップ」でさらに詳しく解説しています。

ステップ2: MoSCoW法による要件の優先順位付け

要件を洗い出した直後に陥りやすい失敗が「全部Must(必須)」状態です。これを避けるためのフレームワークが MoSCoW法 で、要件を4ランクに分類します。

ランク意味SaaS開発での扱い
Must haveこれがないと製品として成立しないMVPに必ず含める
Should have重要だが代替案で当面しのげるMVP直後の1〜2スプリントで実装
Could haveあれば嬉しいが優先度は低いバックログに残し、四半期単位で見直す
Won't have (this time)今回はやらないと合意した範囲明文化し、再要望があった時の判断基準に

MoSCoW分析では、プロダクトオーナーが実現したい目的に合致しているかを軸に、法令や内部規制、関連システムの制約も判断材料に加えてM/S/C/Wを割り当て、ステークホルダーの合意を取ったうえでバックログに反映します(出典: 日経xTECH「『モスクワ分析』を使え!アジャイル開発の優先順位付け」https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01687/00200/ )。

「Won't have」を明文化する効果

実務で最も重要なのが Won't haveの明文化 です。「今回はこれをやらない」と書面で合意しておくと、開発中盤の追加要望に対して「Won't haveに分類済みです、次回計画で再検討します」と返せます。優先順位の合意がない状態で要望を受け続けると、スプリントが破綻し、SaaSで最も重要な「リリース頻度」が落ちます。

ステップ3: マルチテナントアーキテクチャの設計

SaaS開発で最も技術判断が難しいのが、複数顧客(テナント)が同一インフラを共有するマルチテナント設計です。テナント規模とコンプライアンス要件に応じて、 プール型・サイロ型・ハイブリッド型 を使い分けます(出典: Zenn「SaaS設計 マルチテナントアーキテクチャの設計パターン(2025年版)」https://zenn.dev/shineos/articles/saas-multi-tenant-architecture-2025 )。

モデル構造向いているケース
プール型全テナントで同一DB・インフラを共有コストを抑えたい中小規模向け
サイロ型テナント単位で独立DB・独立インフラ金融・医療など強いコンプライアンス要件
ハイブリッド型コアは共有、特定テーブルだけ分離大企業と中小が混在するケース

非機能要件チェックリスト

マルチテナント設計でMust扱いになる非機能要件は、要件定義段階で必ず合意します。後付けはコストが数倍になります。

  • データ分離: テナントAのクエリがテナントBの行を返さないこと(行レベルセキュリティ+アプリ層の両方で担保)
  • 認可モデル: 「テナントID+ユーザーID」を全APIで必須化
  • ノイジーネイバー対策: 1テナントの大量アクセスが他テナントのレイテンシを劣化させない上限制御
  • バックアップ・リストア: テナント単位で論理復元できる仕組み
  • 拡張カスタマイズ: 個別要望はコード分岐ではなく機能フラグ(Feature Toggle)で吸収

データベース設計やRLS・シャーディング実装の踏み込んだ手順は「マルチテナントSaaSアーキテクチャ構築ガイド|DB設計8原則とRLS・シャーディング実装」を参照してください。

ステップ4: Scrum Guide 2020 準拠のアジャイル開発運用

SaaS開発はアジャイル開発、特にスクラムフレームワークと相性が良い手法です。1〜4週間のスプリント単位で「動くインクリメント」をリリースし、その都度ユーザーの反応を吸い上げて次のバックログを並べ替えます。

スクラムの基本構成要素

Scrum Guide 2020 はスクラムの公式定義で、以下4つを軸にチームを運営します(出典: Scrum Guides「The 2020 Scrum Guide」https://scrumguides.org/scrum-guide.html )。

  • プロダクトバックログ: プロダクトを改善するために必要な作業の、出現的で順序付けされた単一のリスト
  • スプリントバックログ: スプリントゴール(why)、選択されたバックログアイテム(what)、デリバリー計画(how)の3要素で構成
  • スプリントゴール: そのスプリントの単一の目的。Developerのコミットメントだが、達成手段には柔軟性を持たせる
  • 完成の定義(Definition of Done): インクリメントがプロダクトに必要な品質基準を満たした状態の正式な記述

スプリント期間の決め方

SaaS開発の現場では 2週間スプリント が標準です。1週間は計画とレビューのオーバーヘッドが大きく、4週間は市場変化への追従が遅れます。期間は固定し、スプリント途中で延ばさないのが原則です。Scrum Guide 2020 準拠のスプリント運用については「アジャイル スプリントとは?期間の決め方と進め方|Scrum Guide 2020 準拠で成功する7つのポイント」で深掘りしています。

ウォーターフォールとの使い分け

要件が法令などで強く固定される領域(医療情報・金融基幹)ではウォーターフォール型が選ばれることもあります。違いの整理は「アジャイル開発・ウォーターフォール開発の違いを徹底比較!失敗しない選び方」を参照してください。

ステップ5: SaaS特有のテストと品質保証

SaaSはリリースごとに全テナントへ同時反映されるため、1件の不具合が全顧客に波及します。 テスト自動化なしの運用は事故時間の問題 です。

SaaSで必ず網羅するテスト観点

  • テナント分離テスト: テナントAから発行したクエリがテナントBの行を返さないこと
  • 高負荷テスト: ピーク時のRPS(秒間リクエスト数)で全テナントのレイテンシSLAを満たすか
  • 課金・サブスクリプションテスト: プラン変更・解約・失敗時リトライ・返金の全シナリオ
  • セキュリティテスト: 認可バイパス・OWASP Top 10・APIスキーマ違反
  • データマイグレーションテスト: 既存テナントデータが壊れずに移行できるか

テスト自動化の3レイヤー

  • ユニットテスト: 関数単位の動作保証。プルリクエストごとに自動実行
  • 結合テスト: API・DB・外部サービスを含む結合動作。マージ前に自動実行
  • E2Eテスト: 主要ユーザーシナリオの自動再生。本番デプロイ前ステージング環境で自動実行

PoC(概念実証)段階での品質検証は「PoCとは?その意味をビジネス視点で解説!AI・SaaS開発で失敗しない検証プロセス」が参考になります。

ステップ6: CI/CDパイプラインの構築と段階的リリース

SaaSの差別化要因である「継続的なアップデート」を実現するには、 CI/CD(継続的インテグレーション・継続的デリバリー) の整備が必須です。

GitHub Actions を使った標準構成

GitHub Actions はGitHubリポジトリ内でCI/CDを直接定義・実行できるワークフロー自動化サービスで、2026年時点でも個人・企業プロジェクトを問わず最も採用率の高いCI/CDツールの1つです(出典: JetBrains Blog「Best CI/CD Tools for 2026: What the Data Actually Shows」https://blog.jetbrains.com/teamcity/2026/03/best-ci-tools/ )。

CIステップ(プルリクエスト時)
  └── Lint → ユニットテスト → 結合テスト → セキュリティスキャン

CDステップ(マージ後)
  └── ステージング環境へデプロイ → E2Eテスト → 本番環境へ段階的デプロイ

本番リリース戦略

本番反映のリスクを下げるため、SaaSでは段階的なリリース手法を使います。

  • Blue-Greenデプロイ: 新環境(Green)を並走させ、検証後にトラフィックを一括切替
  • カナリアリリース: 全テナントの1〜5%にだけ新版を提供し、エラーレートを監視しながら拡大
  • 機能フラグ(Feature Flag): コード反映と機能公開を分離。特定テナント・特定ロールのみONにする

リリース前チェックリスト

確認項目内容
データマイグレーション既存テナントへの破壊的変更がないか
ロールバック手順切戻し手順とDB復元手順がドキュメント化されているか
SLA通知メンテナンスウィンドウを契約顧客に事前通知したか
監視設定デプロイ後のエラーレート・レイテンシ・課金失敗率を監視中か

決済まわりはダウンタイムが収益に直結するため、構築フェーズから注意が必要です。実装観点は「決済システムの作り方【2026年版】|SaaS自作判断と外部API活用の3ステップ」を参照してください。

ステップ7: リリース後の運用改善とスケーラビリティ確保

SaaSはリリースがゴールではなく、契約後の継続率(NRR)が事業の成否を決めます。 運用改善のサイクルを設計に組み込めるかが長期的な利益を分けます

インフラのスケーラビリティ設計

AWS Auto ScalingやGoogle Cloud のMIG(Managed Instance Group)を使い、CPU使用率・リクエスト数に応じてサーバーを自動増減します。月次の負荷予測ではなく、分単位のオートスケールが標準です。DatadogやAWS CloudWatchで監視を構築し、SLA違反の予兆段階でアラートが飛ぶようにします。

カスタマーサクセスとの連携

カスタマーサクセス(CS)チームと開発チームの情報経路が途切れると、顧客の現場ニーズと開発バックログが乖離します。週次でCSが拾った要望をMoSCoW分類し直すサイクルを回し、Won't haveに振り分けたものは顧客に理由とともに返答するのが、解約率を下げる現実解です。

開発費用の段階別目安(2026年版)

外注を検討する場合、SaaS開発の費用相場は段階によって以下のレンジになります(出典: PRONIアイミツ「SaaSとは?開発方法から費用・開発期間まで徹底解説!」https://imitsu.jp/matome/web-system/saas-development 、TimeSkip「SaaS立ち上げのポイント・開発費用や立ち上げプロセスとは?」https://timeskip.co.jp/business_plan/startup )。

段階機能スコープ費用目安期間目安
検証MVP最小機能のみ・1〜2画面50〜150万円1〜2か月
標準MVPコア機能・認証・課金300〜600万円2〜4か月
本ローンチ版マルチテナント・SLA運用1,000万円〜6か月〜
運用保守監視・アップデート月5〜20万円継続

外注時は「マルチテナント・継続デリバリー・サブスクリプション課金の実装実績」があるかを必ず確認します。受託開発専門会社はSaaS設計のノウハウが薄いことがあります。

よくある質問

Q. SaaS開発はウォーターフォール型でもできますか?

A. 法令などで要件が固定される領域では選択肢に入りますが、顧客フィードバックを織り込みながら機能を追加するSaaSではアジャイル開発が市場適合速度で勝ります。詳細は「アジャイル開発・ウォーターフォール開発の違いを徹底比較!」をご覧ください。

Q. SaaSの要件定義書は何ページ書けば良いですか?

A. ページ数より「Must / Should / Could / Won't have」が明文化されているかが重要です。ページ数が多くてもWon't haveが書かれていないと、開発中に追加要望が止まらず破綻します。ドキュメント化の判断軸は「アジャイル開発の要件定義は不要?失敗を防ぐ設計書とドキュメント作成の3ステップ」が参考になります。

Q. MVP開発の期間と費用はどれくらいですか?

A. 検証MVPなら1〜2か月・50〜150万円、コア機能を含む標準MVPなら2〜4か月・300〜600万円が一般的です。半年以上かかる場合はスコープを過剰に積んでいる可能性があります。

Q. マルチテナント設計は後から追加できますか?

A. 後付けはデータ分離・認可モデルの大改修が必要で、コストが数倍になります。要件定義段階でプール型・サイロ型・ハイブリッド型のどれを採るかまで決めるのが基本です。

Q. スプリント期間は何週間が標準ですか?

A. SaaS開発では2週間スプリントが標準です。1週間ではレビュー・計画のオーバーヘッドが大きく、4週間では市場変化への追従が遅れます。Scrum Guide 2020 は最大1か月としており、SaaS実務では2週間が落としどころです。

Q. CI/CDなしでもSaaS開発はできますか?

A. 初期はリリース頻度が低いので手動でも回せますが、月次以上の頻度でリリースするSaaSでは早期にCI/CDを整備したほうが、長期的な開発速度と品質が両立します。

Q. SaaS開発を外注するときの注意点は?

A. マルチテナント・継続デリバリー・サブスクリプション課金の実装実績を必ず確認します。基幹システム中心の受託会社はSaaS設計の経験が少ないことがあり、要件定義段階で「単一企業向け」の発想が混ざるリスクがあります。

まとめ

SaaS開発の進め方は次の7ステップです。

  1. 顧客ヒアリングと要件定義: コア機能に絞り込み、マルチテナント・課金・SLAを定義する
  2. MoSCoW法による優先順位付け: Must / Should / Could / Won't haveを明文化する
  3. マルチテナント設計: プール型・サイロ型・ハイブリッド型を要件に応じて選ぶ
  4. アジャイル開発: Scrum Guide 2020 準拠の2週間スプリントで継続的にリリース
  5. テストと品質保証: テナント分離・高負荷・課金シナリオを自動テストで網羅
  6. CI/CDリリース: GitHub Actionsなどで Blue-Green・カナリアリリースを実装
  7. 運用改善とスケール: オートスケール・監視・CS連携で継続率を高める

費用は検証MVPなら50〜150万円、本ローンチ版で1,000万円〜が目安です。外注時はSaaS特有要件の実装実績を確認し、内製でもMoSCoW合意とCI/CDの初期整備を最優先で進めることが、長期的に成長するプロダクトを作る分岐点になります。

業務を変えるSaaSと、社内AIシステムを。

B2B 向けの SaaS プロダクトや、企業の業務課題を解決する社内向け AI システムを、企画・設計・開発・運用まで一貫対応。マルチテナント・課金・権限管理といった SaaS 基盤から、LLM を活用した社内ナレッジ検索・ドキュメント生成・業務自動化まで、事業と組織の成長に直結するシステムを構築します。

伊藤翔太

伊藤翔太

大学卒業後、外資系IT企業にてSaaS製品の法人営業とカスタマーサクセスを経験。その後、国内のBtoBスタートアップに参画し、新規SaaS事業の立ち上げからグロースまでを牽引しました。現在はSaasラボの専属ライターとして、SaaS事業者に役立つ実践的な最新トレンドやノウハウを発信しています。

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